その後のおまけ
温泉旅行
龍一にとって、静奈を始めとした女性たちの日々は本当に幸せで満ち足りたものになっていた。
世間の決まり事から明らかにズレてしまっていることは否めないが、それでも龍一を含めて彼女たちはどこまでも幸せな日々を謳歌していた。
そんな風にして日々は過ぎ去っていき、いよいよ龍一が静奈と約束していた二人っきりでの旅行の日がやってきた――もちろん行先は温泉だ。
「お待たせ龍一君」
「おう、それじゃあ行くか」
「えぇ♪」
こうして二人で出掛けることはもはや珍しいことではない、しかし龍一にとっても静奈にとってもどんな瞬間であれこのような時間は掛け替えのないモノだ。
「二人とも、気を付けて行ってらっしゃい」
咲枝に見送られ、龍一と静奈はバス停まで歩く。
今回向かう予定の温泉旅館はかなりの評判ということで、常々温泉旅行に行くならここにしようかと話をしていた場所だ。
千沙と沙月も一緒に行きたいと言ってはいたのだが、今回ばかりは彼女たちも邪魔をするわけにはいかないと引き下がったようだ。
「まだ寒いわね」
「だな。春休みも終わりに近づいたとはいえまだまだ冷えてる。お互いに風邪を引かないようにしないとな?」
「そうね。龍一君が風邪を引いたらまた看病してあげるけど♪」
いつのことを言ってるんだと龍一は苦笑した。
それを言うならと龍一はニヤリと笑ってこんなことを口にした。
「それならあまりセックスを強請ってくるな。限界を迎えた後しばらくボーっとしてるだろ? あれも風邪を引く一因だと思うがな」
まああくまで揶揄う為の言葉なので、龍一としても特に体の交わりを否定するわけではなく、静奈が強請っても自分がしたくなっても特に遠慮をするつもりはない。
さてさて、そんな龍一の言葉に静奈はなんと返すか……少し前までの彼女なら顔を赤くして俯いたりしていたが、流石に龍一と何カ月も過ごしているとそれなりに耐性は生まれていたようだ。
「それは無理ね。龍一君とエッチをするのは凄く気持ち良くて、それに凄く幸せな気持ちになるの。私だけでなく、龍一君も幸せを感じてくれていることは肌で触れ合うことで分かっているわ。だからだ~め♪」
「……ったく」
本当に良い女になったもんだと静奈の頭を撫でた。
まだまだ冬の寒さは完全にはなくならない空の下、まるで二人の周りだけ温度が急上昇するかのような雰囲気である。
そもそも最近では高校でも二人はこんな感じで、来年のベストカップルには間違いなく選ばれるだろうという噂も囁かれていた。
「温泉……混浴とか絶対に行きましょうね」
「そうだな。つってもガイドブックにあったけど予約制らしいぜ? だから予め予約している人がいたら諦めるしかねえさ」
「むぅ……そうなったら部屋に備え付けのお風呂でイチャイチャしましょ」
「狭いだろ流石に……」
最近の静奈は正にノンストップで龍一への愛を表現してくる。
当然のことながらそのことに対して龍一が不快に思うようなことはなく、むしろ愛する女に求められることは大きな喜びの一つだ。
ただ……千沙や咲枝に影響されている部分も決して少なくはないので、静奈がこうなるのもある意味予定調和であることは間違いない。
「あ、来たわ」
バスでの移動となるため、ここから数時間ほどは退屈な時間になりそうだ。
利用客のあまりいない静かなバスの中で、二人並んで座りながらその時が来るのをゆっくりと待つ。
「お菓子あるの。どうぞ」
「サンキュー」
差し出されたチョコのお菓子をパクっと口に入れた。
どうも今回の為に静奈は色んなお菓子を用意しているらしく、まるで子供のピクニックのような感覚になりそうだ。
静奈が長い棒状のお菓子を口に咥えて龍一の方へ差し出すと、龍一もそれに応えるように反対側を咥えた。
「……♪♪」
全身で喜びを露にするかのような静奈に近づくように、パクパクとお菓子を龍一は食べ進めていく。
ちなみにバスの利用客は少ないと言ったが、少ないだけで居ないわけではない。
つまり二人の熱々な姿は通路を挟んだ隣の席に居る人たちには見えることになり、同じ高校生くらいの女子二人がそれはもう野次馬根性丸出しで眺めていた。
(……さてと、いつものやつ行くか)
こうやってポッキーゲームを求めるということは間接的にキスを求めていることに他ならない。
ということで残りが僅かになった瞬間、龍一はそのまま静奈との距離をゼロにするのだった。
「っ!?」
驚いた様子の静奈に惚けるなと言いたくなる気持ちを抑え、そのままガッシリと静奈の頭の後ろに手を置いて逃げられないようにした。
段々と瞳の中にハートマークが浮かんでくるかのように目をトロンとさせていく静奈、後少しでスイッチが入りかけるといったところで龍一は顔を離した。
「続きは旅館でな?」
「……分かったわ」
それでもまあ長い旅路である。
キスやボディタッチをしなくても、二人は周りに恋人関係だと知らしめるほどにイチャイチャしたのは言うまでもなかった。
そして数時間揺られることでようやく、目当ての温泉旅館に辿り着いた。
周りの景色もそうだが、旅館の手入れも欠かされていないようで本当に綺麗な門構えをしており、龍一や静奈だけでなく他の旅行客も感心してしまうほどだ。
「行きましょうか」
「おう」
中に入りまずは予約した二人だと受付に伝えた。
静奈が諸々の話を受付の人としている中、ふと辺りを見回していた龍一は気になる四人を見つけた。
一人の男子を囲むようにして歩く三人の美女、それこそスタイルも良く男の本能が刺激されるほどの良い女だった。
(……あいつ、中々やるな)
ただ、複数の女性と関係を持つ龍一だからこそその四人の関係性のようなものが明確に理解出来た。
確かに抱いてみたいと思わせる美人たちだが、今となっては龍一には一切そのようなことをするつもりはない――それだけ静奈たちに満たされているからだ。
「静奈、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「えぇ」
静奈にそう声を掛けて龍一はトイレに向かった。
トイレを済ませてから静奈の元に戻る間、どんな風にしてこの旅行期間を過ごそうかと考えに集中していた時だった。
ドンと誰かとぶつかってしまったのである。
「何してんだよカス」
それは咄嗟に出てしまった言葉だった。
お互いに余所見というか、どちらも悪かったため片方が悪いというわけではない。
(……ってマズった。謝らないと)
とはいえ、咄嗟に出てしまった言葉に対して怖がらせてしまったかもしれないと思った龍一はすぐに謝らないといけないと思って振り向いた。
だが既にそのぶつかった相手は向こうの方に行ってしまっており、龍一は声を掛ける機会を失ってしまった。
「……はぁ、あまり気にしないでくれるのを祈るしかないな」
ため息を吐いた龍一は静奈の元に戻ったのだが、何故か彼女は項垂れていた。
「……どうした?」
「その……混浴は既に予約が埋まってますと伝えるとこうなってしまって」
「……あ~、気にしないでくれ」
それは災難だったなと後で静奈を慰めることが決定した。
しかしながら龍一としても静奈との混浴は楽しみにしていた節があったので残念には思ったものの、こればかりは仕方ないだろと静奈の肩に手を置いた。
「ほら行くぞ。何も混浴だけじゃねえんだから」
「分かってるわ……こうなったら他の部分でもっと楽しんでやるんだから!!」
その意気だと龍一は笑みを浮かべるのだった。
こうして訪れた二人での旅行だが、どんなことをするかはまだ決めていないのでまずはそこからになりそうだ。
しかし龍一も静奈もお互いに愛する存在が傍に居るからか、何をしても楽しい思い出になるという確信があった。
【あとがき】
気が向いたので書きました。
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