第41話 魔法少女ほのりん。ホストクラブで暴れる。

 私は渋谷ダンジョン21層へと飛び、直様、魔法少女へと変身すると不思議そうな顔をしたルル様が現れる。




「ん? ほのりんよ、帰ったのではないのか?」


「ルル様、一緒に地上に来て!」


「……ふむ、何かあったのだな? 良かろう、行こうではないか」




 私はダンジョンゲートに触れ、ダンジョンセンター前を選択しダンジョンゲートに飛び込むと、目の前に私を止めた男性職員と須藤さんがいた。


 私は焦りで忘れていたが、私がダンジョンゲートに入って直ぐにダンジョンから出て来ると、私が魔法少女だと疑われる可能性があったのだ。


 しかし須藤さんは達は一瞬驚いたが、直ぐに冷静な表情になり対応をしてくれた。




「お帰りなさいませ、魔法少女ほのりん様。お怪我はありませんか?」


「……私は大丈夫。少し待っててもらえる?」


「畏まりました」




 須藤さんを待機させ、私は通話アプリを起動すると掲示板に載ったIDを入力し通話を開始する。




「もしもし」


《誰だ?》


「誰だって、あなた達が探している人よ」


《少し待て》


《……お前は本物の魔法少女か?》


「だったら何? 私に用事があるようだけど、城神高校の生徒達に手は出してないでしょうね?」


《あー、男はボコったー。清楚な黒髪ロングの子は、ショーツの中に手を突っ込んだところー》


「……それが本当なら許さないわよ」


《早く来ないと始めちゃうよー。もう滾ってヤりたくてヤりたくてさー。住所送るからカモーン》




 ブツリと通話が切れると、メッセージが1通届く。そこには渋谷にあるホストクラブの名前と住所が記載されていた。




 あの子達に危害が加えられている……私のせいだ……私が安易に写真を一緒に撮ったから彼女達は……。




 歯を食いしばり、自分の浅はかな行いに後悔する。




「ほのりんよ、今は現場に行くことが先決だ」




 ……そうだね、ルル様の言うとおりだ。後悔や懺悔は後でも出来る。今は一刻も早く彼女達の元へ行かないと!




「今から私はこの住所の所へ行きます。城神高校の生徒さん達が、何者かに拉致監禁及び暴行を加えられた可能性があります、直ぐに警察に通報をお願いします」




 私は犯人から送られた来たメッセージに記載された住所を須藤さんに見せる。


 須藤さんはその住所をメモると軽く会釈をした。




「ほのりん様、お気をつけて」


「ありがとう」




 私はスキル【加速】を発動させ、人波を縫うように駆け抜ける。




 須藤は時を移さず、知り合いの刑事に連絡を入れた。これは事件であり、公安に連絡を入れて事態を収拾する必要があると判断した為である。




 渋谷ダンジョンゲート前は、突如として現れた魔法少女ほのりんをひと目見ようと殺到し、須藤や他の職員達は混乱を収めるべく、必死に対応に当たるのであった。




 ▽




 目的のホストクラブは道玄坂付近にある場所にあった。渋谷ダンジョンセンターから歩いて10分くらいの場所にあるが、道玄坂はラブホ街であり、人通りは決して多くはない。


 そんな場所の1画に城神高校の生徒達が、拉致監禁されているであろう場所にたどり着いた。そこは地下1階にあるホストクラブで、階段を降りると僅かに重低音の振動が伝わってくる。




 初ホストクラブがこんな形だとは……もう来る事もないと思うけど、なんだかな。


 大学に通っていた時に数少ない友達に誘われた事があったけど、お金払ってまでイケメン? と飲むのもな〜っと思い、断った記憶が蘇る。あの子はアレ以来ホストにハマり、お金が無くなってからは、夜のお店で働いているらしいが……。




 閑話休題。




 私は指定された住所のホストクラブの前に来た。


 重低音が伝わる豪華な扉を開くと、薄暗い照明に綺羅びやかな証明が灯っていた。


 店内を【暗視】で見渡すと13人のホスト風のガラの悪い男達と、ソファーに男女2人づつ座っている場所をみつけた。




「おーコスプレ女が本当に来たぞー!」




 私は重低音が鳴り響く店内から人の声が聞こえた方向へ視線を移す。


 そこには金髪のツンツンヘアーのホストっぽい男がおり、その人は耳や鼻、唇にピアスを大量に着けた人だった。




「貴方が城神高校の生徒達に酷い事をしたのね? 許せない」


「いやいや〜、彼らが協力的だったこうはならなかったよー。抵抗されれば俺達だって戦うさー!」


「嘘を言わないで! 急に襲って来て壷川の腕を折ったじゃない!」




 たしか、あの子は深瀬さんだったかな? 壷川君は……あの子だ。


 壷川君は顔色が非常に悪いし、汗が吹き出し腕を抱えているけど、あれは骨折? 深瀬さんが言ってた通りね……あの人達、本当に酷い事を……!




「まぁまぁまぁ、結果はどうあれ……取り敢えず寝とけやー!」




 リーダーっぽい人が叫んだと思った瞬間、私の頭部に激しい衝撃が伝わる。


 殴られた? 視界が一瞬ぐるりと回るが、倒れる前に踏みとどまる。痛みはそれほど感じない。ハリセンで叩かれた程度の痛みだ。


 私は殴ったであろう男を睨むと、鉄パイプを両手で持っているのが見えた。


 まさか、あんな物で人の頭を殴ったの? 普通の人なら死んじゃうじゃん! もう怒ったぞ、泣いても許さないんだから!




「手加減しないでちゃんと殴れー」


「い、いや……思いっきり殴ったんだけどな……」




 私は鉄パイプ男の正面に立つ。




「おい」


「う、うわっ!」


「そんな棒を振り回したら危ないでしょ!」




 私は鉄パイプ男のおでこに、力を込めた中指を弾く。




「ほのりんデコピン!」




 パンっと軽快な音が鳴ると、鉄パイプ男の頭部が後方に仰け反り、意識を刈り取る。




「なんだ?」


「……デコピン?」


「おまえらー本気で殺れー」


「ういっす!」




 凶器を片手にぞろぞろと出て来るホストの男達に、私は怒りを抑えながら冷静に男達の一挙一動を注視する。狙うはカウンター、確実に意識を奪い怪我は最小限に抑える必要がある。




「死ねやーーー!」


「フッ!」




 短刀を持った男の突きを回避し、首元に手刀を入れる。一度やってみたかった相手を気絶させる技だが、私の手刀のちから加減が悪かったのか、変な音が聞こえた。




「複数でかかれ!」


「行くぞ!」


「死ね化け物!」




 乙女に化け物呼ばわりは酷すぎる……。私は【加速】使用し、目にも留まらぬ速さで男達にデコピンや、鳩尾に強烈な一撃を与えていく。


 軽く押したつもりでも男達は壁まで吹き飛び、豪華な内装がめちゃくちゃになっていく。




「俺の店がー! あのコスプレ女、無茶苦茶じゃねーかよー!」




 私は重いソファーを【剛力】で持ち上げる。重さは発泡スチロールほどになると、思いっきり男達達に投げつける。


 ソファーが複数の男達を巻き込み店内は阿鼻叫喚に陥ると、戦意を無くした男達が逃げ惑うだけになった。




「おい! コスプレ女、暴れるな! この女がどうなってもいいのか?」




 息を荒くした私が、声のする方向へと視線を送ると、黒髪ロングの女子高生、足立 花美に金髪ピアス男がナイフを首に突き付けていた。




「……卑怯ね」


「卑怯で結構。この落とし前はつけさせてもらうからなー」




 人質に取られては迂闊な行動は取れない。一体どうすれば……。




「ほのりんよ、まじかる☆グリッターネイルだ」


「なるほど」




 目眩まし。この薄暗い空間で強烈な光はさぞ辛いはず。チャンスは一度きり、これで決める。




「おい、縫いぐるみと何コソコソ話してやがる! 地面に膝を突き、両腕を頭の後ろに回せ!」




 私は言われたら通り、地面に片膝を突ける。




「足立さん達は目を閉じててね」




 足立さん達は私の真剣な表情で察してくれたのか、目を強く瞑ってくれた。これなら……!




「お喋りはそのくらいにしろー!」


「まじかる☆グリッターネイル!」




 私は右手の爪先を金髪ピアス男に向けると、店内を激しい閃光で包み込む。




「ギャアアア! 目が、目がああああ!」




 怯んだ金髪ピアス男の隙きを突き、ナイフを取り上げると私は男を蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされた男は、店内の備品を巻き込みながら吹き飛び、一瞬でボロ雑巾のようになってしまった。




 怒りを抑えたつもりが、足立さん達に酷い事をした張本人に対してついつい力を込めて攻撃してしまった。




 私は足立さんを優しく抱擁すると、耳元で謝罪する。




「私のせいで足立さん達を酷い目に遭わせてしまいました……ごめんなさい」


「……いえ、私は大丈夫です。迂闊にあの写真をネットに公開してしまったのがいけなかったんです……。謝るのは私達です」




 あちゃ〜、あのツーショットの写真をネットに公開しちゃったのか……掲示板にも書かれていた事は本当だったのね。


 彼女達が狙われたのは、私を誘き出す為の罠に使われてしまった。


 このホスト達が何故私を狙うが聞き出す必要がありそうだ。




 私はズタボロになった男の前に立つと、冷たい視線を男向ける。




「ひっ! か、勘弁してくれ!」


「それは貴方が協力的だったら考えるわ」


「フハハハ! いいぞいいぞ! もっと小奴らを追い込むのだ!」




 ちょっ、ルル様は黙ってて! 私が悪役みたいじゃない! 私は正義の魔法少女なんだから! 




 私は軽く咳払いをすると、金髪ピアス男に聞きたい事を聞くことにする。




「貴方達の目的は何?」


「……」




 私は金髪ピアス男の股間を踏み抜く。




「ぎゃあああああ! 痛い! 止めてくれ!」




 今の私は自制心が効きづらいから素直に話して?




「協力的なら…ね」


「分かった! 言うから止めてくれ! 金だ! 金を貰えるんだ!」


「金?」


「ああ、魔法少女を捕らえたら100億の内の半分の50億が貰える話しだったんだ……」


「その話は誰から?」


「……」




 足をに力を入れると、金髪ピアス男は慌てふためく。




「まて! 待てって! 渋谷ナンバーズのトップだよ! 俺は渋谷ナンバーズって所のハンターチームに所属しているだ。そこのトップが金になる話を持ち掛けて来たんだ」




 渋谷ナンバーズ? そんなハンターチームがあるんだ? 今度、須藤さんに聞いてみよう。




「それで、足立さん達に酷い事をしたんだ……」




 足立さんや深瀬さんは怯えきっている。壷川君や魚原君もボコボコにされ痛々しい。私の中の黒いモヤモヤが外に溢れ出てきそうだ。


 そんな黒い私が出てこようとした時、ルル様が低くて渋い声で話だす。




「こいつらは悪党だ。こいつが死ねば世の中はもっとより良い世界になるぞ」


「殺人は駄目だよ」


「まじかる☆ボックスなら死体を収容できる。後はダンジョンに捨てればいい」




 とんでもない事を言い出したルル様に、私でもちょっと怖くなる。悪党でも私が手を下したら、この人達と一緒になってしまう。それだけは嫌だ。




「この人達は日本の法律で裁かれるべきよ。私の力はこんな事に使うものじゃないよ」


「……ほのりんがそう言うならそれで良い。……おい小悪党、命拾いしたな」




 ルル様が金髪ピアス男に対して可愛らしい顔を近づけると、見た目とは真逆の声質と発言で威圧する。


 金髪ピアス男は顔を引き攣らせながら、その後はピクリとも動かなくなった。




「さてと」




 私はまじかる☆ボックスからハイポーションを2つ取り出すと、魚原君と壷川君に手渡す。




「これ飲んで」


「え? これってハイポーションですよね? こんな高価な物に受け取れません」


「いいから飲んで、時間が無いの」


「……すみません。では戴きます」




 2人ハイポーションを飲み干すと、みるみる顔の痣は無くなり、壷川君の変色した腕も治った。ハイポーションって骨折も治すなんで凄いね。




「皆さん私のせいで……本当にごめんなさい」




 頭を下げ謝罪する。


 私に出来る事はこれしか無い。




「頭を上げて下さい」




 その声は魚原君だ。私はゆっくりと頭を上げ、城神高校の生徒達を見る。彼らは真っ直ぐと私を見ていた。




「助けてくれてありがとうございました」


「怪我も治してくてありがとう。以前会った時に、コスプレでダンジョン入る事を馬鹿にしてごめんなさい」


「ほのりんさん……本当にありがとう。私怖くて怖くて何もできなかった。花ちゃんがアイツに何かされそうな時も、私何もできなかった……」


「優梨……私は大丈夫だよ」


「花ちゃん……」




 なんか良い雰囲気になってるけど、2人はそいう関係? いや友情だよね? そんな感動的シーンが突如として終わりを告げる。警察が乗り込んで来たのだ。




「ほのりん、精霊のポンチョを使うのだ」


「うん。みんなバイバイ」


「「ほのりん! ありがとうございました!」」




 私は精霊のポンチョを羽織ると姿を隠し、なだれ込んで来る警察官の間をすり抜けるように、ホストクラブを後にした。

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憧れの魔法少女になれたけど恥ずかし過ぎて死にそうです!! @jyambata

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