第6話

 家に戻り、夫にアマリアの話をした。


「本当に、生まれと育ちって色々難しいわね」


 そう言うと、夫は奇妙な顔をした。


「ずっと言おう言おうと思っていたけど、正直僕も君の子育てには多少言いたいことがあったんだ」

「え?」

「君、ジュディスとキャリー・メイを露骨に差別してるだろ」


 急に私達の二人の娘のことを出され、私は驚く。

 一体何だろう、突然。


「え? そんなことしていないわ」

「……」

「本当よ。ただジュディスにはは明るい色が似合って、淡い色の髪の毛には似合うリボンも沢山あるから、買い物の時に色々選んであげるけど、キャリーは特に欲しいとも何とも言わないから、買わないだけのことだわ」

「ジュディスにはピアノが上手くいかないでも他の楽器ができればいい、ってヴァイオリンを習わせてるけどキャリーにはピアノだけだね」

「え? あの子もヴァイオリンを習いたいって言ったの? 嫌だあの子ったら、ちゃんと言えば手配するのに」

「あと、キャリーが上の学校に行きたいって言ってるのに嫌な顔をしたらしいな」

「嫌な? いいえそんなことは」

「いや、キャリーから聞いたよ。自分はもっと上の学校に行きたいのだけど、お母様が行きたいなら行けばいいけどきっと貴女には合わないと思う、と言ったそうだな」

「あの子は人付き合いが上手くないですから、男のひとも混じる大学の方の聴講生になって大丈夫かと思っただけですわ。それに、わざわざそこまで勉強しなくたって、良い縁談は色々と来ていますのに」

「ジュディスには色々な釣書を用意して好きな男性とそれなりに付き合ってみたらどうか、とお膳立てしているようだな」

「ええ、あの子は本当にそういうお誘いも沢山来ますし」

「キャリーに紹介はしたのか?」

「あの子が嫌っていますが……」

「君は自分が言っていることが矛盾していることに気付いていないのか?」

「え?」


 夫ははあ、と深いため息をついた。


「もうずっと、僕は君がジュディスにばかり手をかけて、キャリーを放っておくのに気付いてはいたよ。だからできるだけキャリーには僕の方で気付いた時には手を貸していた。あの子が地味な格好ばかりしているのは、明るい格好をしたくないからじゃない。そういう格好をすると、君がちくちくと遠回しに嫌味を言ってくるからだと。着たくない訳じゃないのだ、と」

「どうして? だって私、そんなこと」

「小さい頃から、君は二人に着せる色が全く違っていたね」

「だってそれは、うちでもそうだったから……」

「ああそうだ」


 夫は大きく手を広げた。


「友達のことは言えないよ。君は君で、私の可愛い娘達に差を付けて、無意識だろうが、二人とも傷つけている。ジュディスも妹が可哀想だと言っている。このままではキャリーも窒息しそうだと。だから僕もこう言わせてもらう。リズ、君はしばらく別荘の方に行ってくれ」

「え、それは」

「しばらく別居だ。君もよく考えておいてくれ」


 私はそのまま部屋を出ていく彼の背中をしばらく見送っていた。

 彼は一体何を言いたかったのだろう?

 私はただ、自分が育てられてきた様にしただけなのに。

 全くもって、訳がわからないわ。   

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彼女が離婚されそうなのはまだ判るけど、私は一体どうしてなの? 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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