第282話 この王子との交渉を丸め込む言い分を!!(5)
「俺とゲームで勝負だって?」
「もし貴様が勝ったら支援金を増やせという企みか?」
レヴィ王子がヤンキー座りで片ひざを地につけ、熱血教師でもない俺の話を興味深そうに聞き入る。
「
「どうだ、それを俺とサシでやってみないか?」
経済力はまだしも、コイツとのさしすせそのサシなら負けはしない。
猛獣グリフォンが倒れ、澄み切った青空教室の下で俺は勝負を確信していた。
すると、あれだけギャーギャーうるさかったレヴィが無言となり、いつになく真面目な顔を地面に向け、唇を噛み締めて黙り込んだ。
何だ、値引きシールが貼られた生きた生ハムメロンの食べ過ぎでお腹でも壊したか?
「お兄様……」
「黙ってろアイリス。これは男同士の決闘なんだ」
ダクネスが街で色々と情報を得た話だと、王子はワンパクさもだが、ギャンブルなどでも負けず嫌いで有名だとな。
だったらこの勝ち逃げできそうな話をスルーするはずがない。
「……分かった、その話に乗ってやろう」
ほら見ろ、王子のプライドなんて芋ツルみたい簡単にひっこ抜けたぜ。
俺は腕を組みながら、王子の台詞を心の中で嘲笑っていた。
(残念ながら顔に出てる)
「俺が負けたら支援金を二割にしてやろう。それで……」
「お前が負けた場合はどうなる?」
「ふえ?」
突拍子のないレヴィの返す言葉に俺の声が1オクターブ裏返る。
「ハーメルンの笛吹きなんかで誤魔化せんぞ。こっちは支援金という多額の金額を賭けてるんだぞ。それ相応に価値のある物を賭けるのは常識の部類だろうが!」
しもうた。
そこまでの未来設計図とか考えてなかった。
うーんと、濃縮還元オレンジジュースのように脳みそを搾り出してよーく考えろ……。
「じゃあ、これならどうだ。もしもお前が勝ったら、俺の妹がスクール水着になってひざまくらで耳かきをしてくれるという……」
「バカか、貴様は! 俺が幼女趣味という損な噂になって、未来永劫、変態のロリ気質王になるだけじゃないか!」
「はい。精々鼓膜を破らないよう、しっかり頑張ります」
「余計に怖いわ!」
元からアイリスが婚約者だし、王子がロリなのは認めよう。
だが、多少のダメージは気にせず、耳垢を隅々まで綺麗にすると言う、お掃除ロボなアイリスの言動力にも正直まいってしまうな。
「では私たちが負けた時はこの宝物のタケトンボを三日ほどレンタルできるということにしませんか……でも遊んだ後はちゃんと綺麗にして返してくださいね?」
「そんなんいらんわ! 一国の年頃の王子がそんな竹細工のおもちゃで遊ぶかよ!」
アイリスって物持ちいい方なんだな。
俺と昔遊んだ時にプレゼントした竹トンボ、まだ持っていたとは。
夕焼けこやけの竹トンボ。
竹トンボソロデビュー記念として、今度、その竹トンボに俺直筆のサインでもしようか。
「ああ、さっきからグチグチと面倒だな。ならばお前たちが負けたら、支援金がゼロになるということでいいな?」
「へっ、リサイクルでも金が絡む時代なのに?」
「そうだ、減るのではなく、完全にゼロになるんだ!」
俺の頭の中で残高ゼロの通帳を持って右往左往するボロいツギハギだらけのドレスを着たアイリスの姿が……。
おい、一国の王女を島流しにするなんて、この世界の経済はどうなってる。
(落ち着け)
「まあ元はと言え、交渉というのは形だけで、お前たちのワガママを聞いてやってるのだ。これくらいの覚悟がないと示しがつかないだろう」
「明日からも毎日ここに来るつもりみたいだが、お前らの金がいくらアップしようとも、俺に一度でも負けたら全部の金額が全てパーだ」
凛とした表情で立ち上がり、俺の方に向かって挑発してくるレヴィ。
くっ、興奮してるせいか、目が血走ってるし、誠にいいホラーな性格してやがる。
「ふふふ。どうだ、それでもやりたいか、この腰抜けが!」
なるへその尾。
俺たちが一度でも敗北したら、不利になっていた王子は一気に優勢に立てる。
ナンプラー好きなギャンブラーから見ても、悪くない駆け引きだぜ。
──まあ、勝負する相手が俺とアイリスじゃなかったらな。
「おし、それでいいなら、勝負する内容は俺に決めさせてもらうぜ」
「なに?」
俺は顔を伏せ、レヴィから目を背ける。
「この際だ。内容はシンプル伊豆ベストでいかせてもらう」
そして軽く微笑しつつも、自身の服の袖を軽く摘んで、ネタの下準備をする。
「それじゃあ、百エリス硬貨がどこにあるか当ててくれないだろうか、ツンデレ坊や?」
「むむ無……」
坊さんじゃあるまいし、これ以上、無になっても何も変わらないはず。
これが無の特権というやつか?
「……ふーん。内容からして純粋なギャンブルで勝負ときたか。バカだな貴様は。もう言い訳は通用しないぞ?」
レヴィが俺をなめてかかるが、そんな悪徳なハチミツシロップの手口に引っかけたわけじゃない。
「あっ」
アイリスが一声発し、何かを思い出したように軽くひとさし指を立てた。
「確か、お兄様は類を見ないほどの幸運のステータスの持ち主でしたね」
「は、幸運がか?」
レヴィが間の抜けた顔でアイリスを小馬鹿にする。
この分だと幸運の四つ葉のクローバーも、耕運の四つ葉の味噌汁とかも信じないたちだな。
「アイリスの言う通りだぜ。もう後戻りはできないぜ!」
「さあ、俺と人生を賭けて勝負だ!」
そうこれは大博打だが、ボードゲームの人生ゲームと一緒だ。
背後に炎の壁を燃やしながら、心から熱くなった俺は両手の拳を握り、レヴィ王子の究極の選択を待ち続けた──。
【次回へ続く……】
この素晴らしい楽園に青春―アオハル―を!?《このすば120%ギャグリメイク》 ぴこたんすたー @kakucocoro
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