第281話 この王子との交渉を丸め込む言い分を!!(4)

 今日のルンダッルンダッな闘技場ごっこを終え、ワガママハイスペックな王子と別れた後、エルロードの街並みの緩やかな坂道を下る俺とアイリス。

 もう夕方過ぎだから、晩飯くらい奢ってくれてもいいじゃないか、ひょろいもやしなケチン坊。


「お兄様……残念です」

「あれだけ潔く前に出てもレヴィ王子から、たった一割の支援金しか手元に戻りませんでした……」


 沢山の観光客が行き来しながら、アイリスの思いを聞いてあげる紳士な俺。

 話下手でも聞き手上手なのはコミュ力アップの秘訣とか何かの本で読んだ気がする。


「なに夢遊病なことを言ってるんだよ。一日で一割なんて営業ガールにしては立派なもんだ」

「これを積み重ねて、毎日律儀に通って二十日を目安にとことん脅す……いや、心からのお願いをしたら、将来的には今の二倍の儲けが出るんだぜ」


 俺は両腕を頭の後ろに組んで光合成を始める。

 たまにはこうやって輝かないとイケメンの質が落ちるからな。


「そうやって前向きに考えたら、立派な利益じゃんかよ」

「……お兄様」


 俺はアイリスを励ますように笑顔で語りかける。

 すると今まで落ち込んでいたアイリスの陰りが消えていく。

 これぞ、口先だけで落とすマジ○クリン。


「そんなに単純な話にはならないと思いますが、聞いていて何だか元気をもらえました」

「お兄様、明日の付き添いもよろしくお願いしますね」


 満天の微笑みのアイリスは闇夜に浮かぶお月さんよりも幾分と綺麗に見えた。


****


 ──次の日、イワシ雲が広がる城内の訓練場にて……。


『エクステリオン!』

『ドオオオオーン!』


 アイリスの超必殺剣がグリフォン(鷲獅子)の巨大な体に痛快にヒットする。


『ドオオーン!』


 アフリカン象が倒れるような大きな地響きを立てて、あっさりと天に召されるグリフォンちゃん。

 レヴィ王子は信じられない結末に酸欠状態の金魚のように口をパクパクさせていた。


「う、嘘だろー!?」

「お、俺の最強のペットが一太刀で!?」

「ふふふ……スカウターも持たずに見た目で判断するとは、愚かな王子だな。俺の可愛い妹の力はこんなもんじゃないぜ」


 俺は腕組みをしながら、遊園地のコーヒーカップに乗った戦闘力100万のサイダー人のように、何も分かっとらん王子に警鐘の鐘を鳴らす。


「こんなグリフォン如き、アイリスなら剣先一本で華麗に捌いてしまい、三ツ星シェフの料理長も驚きというか……」

「おい、お前、その身の変わりようはなんだ! 檻に入っていたグリフォンと初対面した時、卑怯とかセコいとか、ありがた迷惑とかと叫んで大騒ぎしてたよな!」


 髪に手を添え、クールビューティフルな表情でキザなポーズを決めると、レヴィが今までの過去の出来事を批判してくる。

 文句があるならアイリス県議会(リーダーは俺だから)を通してくれないか。


「ではレヴィ王子。約束通り倒しましたので、これで支援金を……」

『チャキン!』


 アイリスが平然とした顔で持っている剣をレヴィに向ける。

 怪しく光る剣の先っぽはレヴィにとっては脅威の存在でもあった。


「わ、分かった、分かったから! その物騒な剣を引っ込めろ!」

「まあ支援する金は昨日と合わせて一割五分だけどな。だから今日はさっさと帰れ!」


 また渋ってきたな、このとっとこんハムスター小僧め。


「そ、それはないですよ。せめて二割増しでお願いできませんか!」

『チャキーン!』


 真顔のアイリスが鈍く光る剣先をレヴィの前に突きつける。


「だからその剣を向けんな! お前、俺を脅してるのか!?」


 ──うーん、どこにでもいそうなガキンチョと思ったんだが、王族で身につけたしつけやしきたりのせいか知らないが、武力行使や脅迫などには折れない、フォアグラな肝の座った王子だぜ……。


 それに俺たちを田舎者と見下しての強気な対応力……だったら……。

 その高いプライドを利用して、ちょっと俺流のお得意な罠にハメてみるか。


「──おい、レヴィとやら。ここは一つ、俺と勝負でもしないか」

「は、何言ってんだ? 誰がお前のような凡人と……」


 レヴィが俺を睨みつけて、凡人と口ずさむもんだから、思いっきり凡人を超えたいぜ。


「おいおい、これまた変な勘違いだな。こう見えても魔王軍の幹部クラスを何人も亡ぼしてきた男なんだぜ」


 あながち嘘はついてない。

 王子の心を威圧するため、多少の犠牲も付き物だ。


「こんな俺に戦いを挑んだら、この国のへっぽこ騎士どころか、グリフォンすらも恐れるほどの格の違いが分かるよな」

「お前らのメンツじゃ、俺の妹にさえ勝てないんだ。もういにしえのドラゴンでも呼び寄せるしかないだろう」


 たまには炭火じゃなく、ドラゴンの炎に焼かれながらのバーベキューも悪くはない。


「お兄様……」


 俺のひよっ子な力を一番理解してるアイリスの目線にちょっと傷付くけど、まあ、王子相手なら支障はない。


「俺の望む勝負とはゲームの話さ」


 静かに目を閉じて、麗しきクールフェイスでレヴィに勝負を挑む俺。


「こんなカジノ王国で王子なんかやってるお前なんだ」

「ルーレットやトランプとかの賭け事は嫌いじゃないだろ?」


 俺の質問攻めにレヴィは分かりきった顔つきで思っていた言葉を発した。


 ワレワレハ、イセイジンデアルと!

(無属性の異世界人)

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