第280話 この王子との交渉を丸め込む言い分を!!(3)

 ──城内の訓練場にて、刃こぼれのボロい剣先を地面に突き立てたまま、大きく息を吸い、呼吸を整えるアイリス。


 周囲にはレヴィ王子の兵士たちが冷たい床に横たわって気絶しており、誰一人、まともに剣を握る者はいない。


 そのアイリスの血塗られた攻撃を目前としたレヴィはショックで腰をぬかし、両ひざをつけ、四つん這いの赤子なバブゥのまま、そこから動けなかった。


「──あの、王子」


 アイリスの声に思わずビクつくレヴィ。

 数ある兵士を音速で切り裂いた騎士道の険しい表情から、普通の愛らしい女の子の顔に戻ったアイリスがレヴィに話しかけたのだが……。


「そろそろ私の話を聞いてほしいのですが……よろしいですか?」


 アイリスが自身の力をひた隠しにしながら会話をするにも、レヴィの目はひたすら虚空で感情もなく、彼の耳に届くのは悪魔の囁きでしかない。


「はい。分かりました。あなたの要望を聞かせてください」


 剣を地面に下ろしたアイリスにしゃがんだままでレヴィが素直に応じてくる。

 ツンデレだけど、素直な王子だけに。


「誠にありがとうございます! それでは支援金の方もザクザクと……」


 はっとなり、アイリスの言いなりで尻に敷かれていたレヴィが立ち上がる。


「いやいやいやいや、ちょっと待てえぇー! 確かに話は聞いてやるとは言ったが、支援するとは言ってないぞ!」

「俺という主役を置いて、勝手に物事を進めるんじゃなーい!」


 レヴィが拳を握り、自身の主張を表に出す。  

 なあ筆者よ、この物語の主人公は俺じゃないのか?

 どうせまた、美味そうな食いもんにでも釣られたか?


「ああ……そうでゴザンすか」

「しゅん……」


 この野郎、主役は俺のはずなのに何かムカつくな。

 おまけに後から色々と面倒なことを喋る傷んだ棚ぼたな性格でもあるし……。

 ほら見ろ、落ち込んだアイリスの背丈が、お前の意見に対し、申し訳ないようにグングンと縮んでいくじゃないか。


「だったらアイリス。兵士たちは全員気絶してる」

「ということは、この事故の目撃者は俺ら以外、誰もいないんだ」


 俺はアイリスの肩を軽く叩き、こちらに意識を持っていかせる。


「何ならこのガキンチョを家庭菜園の畑に埋めて、カナカナと鬼隠しのように亡き者にして、さっさと我が街に帰ろうや」

「ヒッ!?」


 ヒクらしのなく頃に。

 鬼隠し的な、人を闇へとおとしめる計画にまたもや腰を抜かすレヴィ。


「それはいけないですよ、お兄様。そのやり口だと王子からお金を頂けません!」


 うんうん。

 優しさからくる言葉じゃなく、単純にお金が貰えないという正当な理由を述べるか。

 我が可愛い妹君よ。


「……一割りだぞ」

「蕎麦の話か?」

「違う。支援の一割りだ」


 レヴィが片ひざをつき、再び俺らと同じ目線となる。

 パンやパスタ、クッキーから、この異世界に小麦があるのは承知してたが、この世界でも蕎麦というものがあるんだな。


「王女の言う通り、急に防衛費の支援をストップすることも、この国の信用度が下がる恐れがあるからな」


 いや、この街からの話じゃ、お前さんの信用度は地の底だし、これ以上パラメータは下がらないだろ。


「一割りだけなら継続してやろうじゃないか!」

「そんな……一割り程度ではとてもじゃ……」

「ハハハッ。田舎者の王女の割にはこの俺に楽しい演劇を披露してくれたからな。今回はあくまでもその褒美とやらだ!」


 アイリスが不満を漏らす中、レヴィは極めて淡々と言葉を紡ぐ。


「うーん、そうだな。もっと金が欲しいなら俺を存分に満足させることだな」

「フフッ……。だから明日もこの場所に来い。お前がビビるような大物の相手を準備して待っておく」


 何も状況を知らんやつが会話聞くと、釣り堀での魚釣りの話題みたいだな。


「その相手にお前が勝てたなら、また予算を増やしてやろう」

「分かったか、脳筋王女!」


 レヴィがアイリスに指をさして、堂々と勝ち誇ったようなドヤ顔をする。

 何だよ、そんなにヤベエ相手なのか?

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