第279話 この王子との交渉を丸め込む言い分を!!(2)

 一夜明け、よく晴れたエルロード城下町で落ち合った俺らズッコケない三人組。


「それでは行って参ります!」


 俺の横に並び、江戸時代の武士のような語り口でアイリスが拳を握りしめ、気合いと空気中の酸素をちっちゃな肺に取り入れる。


「アイリス様、道中お気をつけて。カズマ、後は任せたぞ」

「ああ、ここは日中猿軍団のリーダー兼、副リーダーに任せな」


 誰もメンバーがいないので同好会で掛け持ちのグループだが、俺自身は結構気に入ってたりする。


「うむ。猿顔はともかく、本当はこういう護衛任務は私の専門分野なのだが……」


 ダクネスは一人冷静に俺とアイリスを見つめている。

 まるで根性の別れのように……ドMだもんな。


「あの王子からアイリス様とカズマのセットで来いと無理強いをされては……」


 恐らく俺のことをお兄様呼ばりしていたアイリスを気遣っての考えだろう。


「だからアクアはカジノ、めぐみんは探索と二人とも街に消えたが、私も書店でこの街のことを調べて交渉に役立つ材料を探しておくな」

「了解です。こっちの王子の件は私たちが何とか言いくるめます。必ずや支援金をたんまりと貰って帰ってきますね!」


 そういえばこの世界、ペイペイとかなく、基本的に現金を持ち歩かないといけなかったな。

 布袋とか布テープとか、よろず屋に売ってるかな。


「よっしゃ、アイリス親衛隊壱号カズマ。いよいよ本腰入れるぜ!」

「あの生意気レヴィ王子とやらに一泡どころか、フタ泡吹かせるつもりで行くぞ!」

「はい、お兄様」


 不意にシュワシュワが飲みたくなり、俺はご褒美をかねて、爽やかな顔で足を運ぶ。

 それを心で理解したのか、エスパーアイリスもにこやかな微笑みで俺に続いた。


****


「──それで王子、あれほど私を拒絶していたのに、ここで立ち会えとはどういう心境の変化でしょうか?」

「なーに。心配は入らないぞ。俺としては昨日の会談で交渉は終わったと見ている」


 レヴィ王子から城内の訓練場に案内された俺とアイリスは大勢の甲冑の兵士に怯むことなく、もしもし糸電話ではなく、自然な流れで会話を交わす。


「だから俺はこれ以上にお前らと交渉するつもりは全くない」


 レヴィが手のひらを返し、余裕の笑みを浮かべ、見下した目でこっちを見る。

 だから何で常に上から目線なんだよ、たまには民の目線になれよな。


「だけど……俺は面白いイベントが好きでな」


 あれか、恋人や家族のいない相手にも容赦なく降りかかるイベント、クリスマスとか正月、バレンタインなどと何かと食べ物で括った罰ゲームみたいなアレがか?


「ここにいる俺の最強兵士たちと戦って、全員に勝てたら少しでも話を聞いてやるぞ!」


 レヴィが甲冑以外に赤いマントまでも着込んだズラリと並ぶスーパー兵士の群れを見せつける。

 要するに自慢なアメ○ミフィギュアたちを見せびらかすみたいな。


「フフッ、ひよっ子なお前ら、それでもいいのなら──」

「ええ。受けて立ちましょう!」


 アイリスがレヴィの台詞を遮って、ペーパーじゃない果し状を受け取る。


「……はっ?」

「はい。その程度のことでしたら喜んで参加します!」


 アイリスがレヴィにゆっくりと頭を下げて、なんちゃってカリバーと呼ばれる剣の柄に手を当てる。


「ちょい、アイリス。あまり調子に……」

「お兄様、ここは任せてください。私一人で十分に戦えますから」


 お兄ちゃんは分かってるんだけど、れっきとした女の子なんだから不安にもなるぜ。


「さあ皆様方、どこからでもどうぞ!」


 ピシッ。

 さあ皆様方、どこからでもどうぞだと?

 兵士たち、いや一国を護る男の目つきに殺気が走る。


「ふははははっ。この最精鋭な我々を前にして複数形でかかってこいとは笑わせる」

「いくら武闘派で有名なベルゼルグの姫でも、我々を過小評価しすぎではないのか?」


 兵士の一人がアイリスの前に出て、アメゾンレビューがどうこう言い出した。

 誰がこんなおっさんの粗品を買うんだよ。


「いいえ、そのようなつもりは微塵もありませんが……何人からでもお相手をしますのでご自由に……」

「もらったあああー、きええええぇぇー!」


 アイリスが弱々しい主張を言う隙をつき、一人の兵士が奇声を叫びながら、アイリスに斬りかかる。


『エクステリオン!』


 そこへアイリスの光り輝くオーラを纏った上段斬りが兵士の剣にぶち当たる。

 アイリスに攻撃を当てようとした兵士の持っていた剣は綺麗に真っ二つに折れ……、


「……は、はひっ?」


 ……兵士は剣を構えたまま、その場で尻もちをついた。

 これには他の兵士も驚いて声も出ず、レヴィも醤油ラーメン以上に面食らっていた。


「なあ? 強豪アイリスさんよ」

「相手の剣を折り鶴のように一本ずつ折っていたら訓練どころじゃすまないだろ?」


 俺はまだまだ子供なアイリスに戦術のイロハを教えてあげる。


「ほら、あの樽の中に刃を切れなくしたボロい剣が大量にあるだろ。あれで戦うといい」


 俺は空のワインの酒樽に詰められた剣を指さし、レベル差がありすぎても対等に戦える策をアイリスに伝えた。


「あっ、そうですよね。誠にすいません。あなた方の丹精込めて育てた大切な剣を駄目にしてしまって……」


 そうだよな、金とスキルで注ぎ、鍛冶屋で鍛えた剣が一瞬でパーだもんな。


 アイリスがとてとてと漫画のように走りながら、樽から一本の剣を抜き取る。


「それでは皆さん」

「改めて、私とのお手合わせをよろしくお願いします!」


 アイリスが構えた剣は光を受けてギラつき、それを見たレヴィは恐れをなしていた……。

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