第278話 この王子との交渉を丸め込む言い分を!!(1)

「レヴィ王子、ごきげんよう」


 玉座のような豪華な椅子に座って骨付きチキン食べるレヴィ王子に丁重な挨拶をするアイリス。


「少しばかり私とお話する時間をもうけてもよろしいでしょうか?」


 アイリスが両手をスカートの上で組んで、王子のご機嫌取りを始めた。

 初めてのマウント絡みなドスコイ相撲取りだな。


「何だ、機嫌なら最高に悪いぞ。どうせくだらん話なんだろ」

「筋肉モリモリなほうれん草ベルゼルグ王女の茶番には付き合わんぞ」


 このクソガキめ……。

 チキンを食いながらの応対も失礼だが、あからさまに嫌そうな顔をするのも止めろ。


「おい、カーネルケンダッギー小僧。お前、俺様の妹に対して対応が素っ気なくないか。お前も王子なら相手に向けて、礼儀正しく接するというマナーすらも知らないのか?」

「お、お兄様! およしを!」


 回らないお寿司を希望かは知らないが、アイリスがレヴィに対しての俺の怒りの矛先を何とか食い止める。


「何だよ、貴様のような冒険者風情がこの俺に向かって……!」

「……それにあん? お兄様だって……?」


 王子の立場としてのレヴィが逆ギレして俺に対抗してくるが、相手がお兄様と知って、ピーマンの肉詰め料理のように苦々しく言葉を詰まらす。


「お兄様、ここは堪えてください。短気に怒っても何も解決の糸口は見つかりません」


 アイリスが俺の服の袖を掴んで説得モードになる。

 私一人でもガンバルンバーのお掃除モードか。


「我が国は何が何でも防衛費が必要で、いざという時に強い武器や防具が作れるような資金繰りがなくては困るのです」

「私を慕うお気持ちは分かりますが、ここは私の将来のために、そっと背中を後押ししてもらえませんか?」


 くっ、そんなマジで100%な顔で攻められたら、何も言い出せないじゃんか。


「……むう……本当に罪深い妹だよな。分かった、わーたよ」

「そこまで強気に押されたらNOというわけにもいかないだろ」


 俺は照れ隠しに頭をポリポリと掻きながら、世界一可愛い妹の言い分を聞いてやる。


「それでですね……レヴィ王子」


 静かな沈黙のラグクラフトが隣に寄り添う中、玉座に座っているレヴィが何ごとか、異空間にぶっ飛ばされるのかと身構えていた。


「実は防衛費の支援についてお話しがしたくて……」

「その件なら却下だ」


 レヴィがひざ掛けを叩いて即答する。

 その間、コンマ0.1秒。

 高校生クイズの早押し問題並みだぜ。


「そこに居るラグクラフトと親身になって話し合ったんだ。その結果、俺の答えは揺るがない」

「マグマが噴火して大地が粉々に割れても駄目だ」


 いやそうなれば、ラグクラフトもお前を慕う人類たちも滅びるだろ。


「あの、それはどういう意図でしょうか。防衛費の支援は無くなって我が国が敗北すれば、今度はこのエルロードが標的になるんですよ?」


 アイリスが分かりやすく、小学生でも納得するような正論を言ってくる。


「ああ、そんなちゃちな件ならお前たちは心配しなくても大丈夫だ」

「俺には完璧な計画が揃ってあるんだ」


 レヴィが片ひじを太ももにつけ、やる気のない契約話に仕方なしに付き合う。


「もう我が国は魔王軍と戦場で争うことはこれからは1ミリもない」


 大真面目な顔でアイリスを見据える王子。

 その目は泥水のように濁り、有無もハムも言わさぬ態度でもあった。


「だから防衛費の支援もその他の手助けをすることも一切しないようにした」

「ちょっと待ってください。私は何も聞いていないですよ!?」


 レヴィの出した結論を聞き、両手を胸に聞く耳もたん=鬼気迫る顔付きのアイリス。


「それでしたら我が国との友好同盟はどうなるのです!」

「すまんな、こっちにも様々な理由があるんだ。友好関係は続けても支障はないが、下手に魔王軍を刺激したくなくてな」

「それから田舎街からここまでわざわざ来たんだ。今回の件もあり、お前との婚約を破棄してもいい。元々身勝手な親が勝手に進めてた見合い話だったからな」


 淡々と語るレヴィの心境を知って知らずか、無反応で立っている護衛数名とラグクラフト。

 なあ、王子の命令に忠実なのはいいが、立ちくらみでバタバタと倒れんなよ。


「元からムキムキで脳筋レベルなベルゼルグの王女との結婚には反対してたんだ」

「どんな理由であれ、男より強い女となんか結婚出来るかよ」


 レヴィが放つ冷たい言葉に胸を震わせるアイリス。

 一国の王女でもこの仕打ちは酷すぎる。


「ううっ……そんなのって」


 アイリスが両手を震わせながら、レヴィと間合いを一気に詰める。


「婚約破棄してもらっても私は別に結構です。でもこの国からの支援を失えば、我が国の未来が……!」

『ギギギギギギギギ……』

「うぐっ! ぐ……ぐるしい……ちょっとやめろっ……!?」


 アイリスが泣きながらレヴィの襟首を強く掴んで、思いの丈をぶつける。

 首をきつく締められたレヴィは何とか抵抗するが、一向に太刀打ち出来なく、最終的には隣にいたラグクラフトに命を救われる身となった。


「ゲホゲホッ。この怪力女、俺を天国に落とす気か!」

「もう俺からの話は以上だ。ウザいから早く去れ!」


 レヴィ王子が咳き込んで床に両手ひざをつく中、アイリスが心の底から残念そうに口を閉ざす。


「……了解しました」

「ほっ……。だったらいい。それじゃあ……」

「明日、またここに来ますから」


 レヴィが深く溜め息をし、頷きかけるが、どことなく影のあるアイリスの撒いた餌に食らいつく。


「はあ? お前何言って?」

「ですからまた明日ここに来ますので」


 両目を赤いカーペットにやりながら、続投の意思を伝えるアイリス。


「いえ、これは愚問でしたね。明日だけじゃありません」

「明後日もその次の日も一週間後も……」


「あなたの口から支援を頂けるという言葉が出ない限り、この身が朽ち果てるまで伺いますから!」


 アイリスが吹っ切れた表情でレヴィに熱心に想いを伝える。

 それ死んでゾンビになっても、タンポポの綿毛になっても会いに来るという、映画じゃお約束なやつだよな。


 ラグクラフトが無言でアイリスのテロ行動を見つめる中、めぐみんは何本目か分からん骨付きチキンをくわえたままで、それを止めようとしたダクネスも、どさくさで年代物の高い白ワインを飲んでいたアクアの動きもピタリと止まる。


「ああー、もう好きにしやがれ!」


 そして、とうとうレヴィがアイリスの強気な言葉に言い負かされたのだった……。

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