第4話 虚構と脂肪
「それでは、先のヤヌート攻略戦において非常に大きな活躍された中尉にお話しを伺います。」
「中尉! 軍の発表では非常に重要な拠点の防衛に貢献されたそうですね。噂では旧世紀に開発された未確認の敵機と遭遇されたとか?」
「えぇ、事実です。北は劣勢な戦況を覆すため卑劣にも禁忌である『領域機』を戦線に投入してきました。」
しばし騒然とする会見場。
ボルテージが収まるのを待って今度は大手配信社の記者が発言を求める。
「恐ろしいことです中尉。しかし、中尉達の部隊は一時行方不明となりながらもその禁忌を見事撃破したそうですね! 事実ならマイルズ勲章ものの功績ですよ!」
「えぇ、事実です。しかし、騒ぎ立てるほどのことではありませんよ、所詮はロールアウトから百年以上経っている旧式です。軍はすでに対処法を確立しており、常に最新鋭の装備を与えられている我々ならば十分対処出来ます。」
再び騒然とする会見場。
ライブハウスなら丁度観客も温まってきたところだろうか。
ぴったりしたスーツを着こなしたブロンドの女性記者も妙に熱っぽい視線を送りながら質問を投げかけた。
「既に昨シーズンの撃破記録を大幅に更新するのは確実と見られていますね中尉。昇進も時間の問題では?」
「個人成績に関する話はお答えできません。安定した成績を収められているのは軍をはじめとした周囲のバックアップの賜物だと考えています。 今回の作戦でも北による卑劣な兵器使用によって小隊の仲間が負傷しました。いくら戦場といえど我々人間の行いには常に敬意と理性があるべきでしょう、こういった条約違反は『断絶』から立ち直った人類が築き上げた社会に対する挑戦です。私は旧世紀の遺物が何度送り込まれようと必ず叩き潰し、この紛争を早期に集結させると心に決めています。」
記者に向かって堂に入ったウインクまで決めてみせた『中尉』についにこらえきれず吹き出した誰かのせいで、いつものカフェは爆笑に包まれた。
「おいおいおい笑うなって! これ暗記するの大変だったんだぞ!」
大盛りのスクランブルエッグを驚異的なスピードで胃に流し込みながら、スキニーが抗議の声を上げる。
「除隊して俳優になった方がいいなスキニー、こんな美男子俺は今まで見たことないぞ」大笑いしながら画面の中の『中尉』を指さしてやった。
実際、会見場で歯の浮くような美辞麗句を並べ立てる彼はちょっとしたものだ。
短く刈り込まれてはいるが丁寧に整えられた頭髪に、パリッとした軍服の上からでも伺える均整の取れた肉体。若さを感じるハリのある肌に、大きな青い目が内面の強い意志を感じさせている。
しかし、画面の外で今度はホットドッグをぱくつく奴はと言えば、広がってきた額に不摂生で荒れた肌。伸び放題の髭には出来立てスクランブルエッグの欠片。着古した軍服にでっぷり脂肪の詰まった腹がやや収まりきっていないときている。
二日分隙間が空いた腹に詰め込む為の次の生贄をメニューから探しながら、お前らだっていつもやってる事だろうがとブツブツつぶやいているスキニーだが、何となく機嫌が良いのは公式には負傷したと発表されている同小隊の戦友の早期復帰を願って大盛況に終わった会見の後にブロンド記者との役得でもあったのだろう。
ディッカーとの約束通り、スキニーに次に死ぬまで好きなだけ酒を奢らせる契約を取り付けたピースは今日死んだ誰かと明日死ぬ誰かのために乾杯することにした。
OLD WAR あんこ文 @leozou
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