第3話 血と鋼

 白熱した重機関刀ミートミキサーが降りやまぬ汚染雨を蒸発させ、あたりにはダイオキシンとバスタブいっぱいぶちまけた汚物の臭いが立ち込めている。

 

「スキニーの奴手間かけさせやがって! 回収が済んだら酒でも奢らせようぜ!」

 元下水処理場の『泥』と先ほど始末した外骨格歩兵ミノムシの鮮血を頭からかぶったディッカーがウンザリした様子で叫んだ。

 自爆したミノムシのせいで、肥溜めにまき散らされたベーコンになりかけたピースもこの提案には大いに同意して、奴が再構築された暁にはバランタインの十七年物を次に死ぬまで奢らせつづけようと固く決意したのだった。


 回収は難航していた。スキニー達の通信が途絶してから既に二十四時間以上経過しており、普段回収任務に専従している腐肉漁りパラジャンパーではないピース達にも回収の御鉢が回ってきていたのだ。

「その辺で死んでてくれりゃ良いんだがな…… あいつ、ちゃんと死ねてると思うか?」

 10時間の捜索が空振りに終わり、撃ち尽くした対物用バトルライフルを再装填しながら流石に心配になってきたのかディッカーが訪ねる。

「心配ないさ、ゴリアテに出くわしたって話が本当なら近接戦闘で核を狙うはずだ。大方スキニーの奴手持ちの爆薬全部奢っちまったんだろう。その辺の植え込みにでもばらまかれてるだけだよ。俺だって前頭葉は未だ行方不明だぜ?」

 しかし、異常事態なのは明らかだ。

 どれだけ激しい戦闘でも『戦死』から三時間以内には必要な分の欠片は回収されて生化学的処置を受け再構築ホームカミングされるのが通例だった。

 まして、精神が身体に依存していない俺達はGPSで身体の一番大きく残った部分をマッピングして回収を待てば『ロスト』の危険性はまず無い。

 頭を切り落とされようが、爆風でふきとばされようが、条約違反の大口径弾をぶち込まれて上半身がミートソースになろうが、それは変わらない。回収に来た同僚に軽口を叩きながら前頭葉の転がっている場所を教える。


 それがピース達四人、再雇用組オールディーズの日常だった。



 出し抜けに拡張聴覚ロバの耳にノイズが走る。

 いかれたラジオDJのような調子はずれの叫び声が大きくなったり小さくなったりしながら虚空に呼びかけ続けるのが聞こえた。

「誰かいないのか? こちらOB‐063、哨戒中に不明な敵機による奇襲を受け戦闘不能。回収を頼む。ついでにあのデカブツに振動弾でも十発ほどやってくれ! おい頼むよ! もう何時間肥溜めにぶち込まれてんだ? 現実の方の『俺』が飢え死にしちまうだろうが! あぁ、腹が減ったなぁ……」

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