第13話:天賦
無尽蔵に湧く幻影の騎士軍は、実際の騎士団の如く体格や武装も様々。
ヘルノーゲンの攻撃はすり抜け、幻影騎士たちの攻撃はヘルノーゲンへと降りかかる。
まさに無敵の兵団と言えよう。
「これならばいける!さすがはノーネッツ卿!我らも負けてはいられませんな!!」
周りの騎士たちの士気も上がっている。勢いではまさにセクバニア軍側が優勢といえるかもしれない。
「相手は未知数の龍族、油断するんじゃないわよ!」
ルミリアからそれ以上の言葉はない。相手は四賢龍神。単純に余裕がない。
幻影の騎士軍は確かに強力な手札だが、ルミリアが2点克服出来ていない弱点がある。
1点は術者が1歩でも動けば霧散してしまうほどに集中力を要する事。
2点目は術者の思考回路が乱されると幻影の騎士軍に攻撃が通ってしまい、そのダメージは全て術者に降り注ぐこと。
強力な魔術であるからこそのリスクであるのだが、むしろこの数年でここまでの力を会得したのは、魔術を極めしローゼンの教えと、ルミリア自身の天賦の才があってこそだ。
戦力にならないよりは断然マシであるが、
リスクがバレないようにとルミリアは騎士団の動きに合わせてわざと腕を動かし、体を動かせない事にフェイクを織り交ぜた。
「なかなかやる。我に手を出させぬとは…しかしこれはどうかな。幻術師」
ヘルノーゲンの攻撃は幻影騎士軍には通じないのを分かりながらも、ヘルノーゲンは黒炎のブレスを吐いた。
そのブレスは幻影騎士軍をすり抜け、奥にいる一般騎士たちを灰燼と化していく。
「アンタ…なんてことを…」
「貴様は恐らく自分が前に出れば決闘をしてくれるだろう、と踏んでいた。今出会ったばかりの得体もしれん存在を何故信じるか。それは貴様の弱さ故であろう。甘い考えをもって戦場に出てくるな。部下を守る気すら欠ける半端な術で何が隊の長だというのだ。」
言葉の後、ヘルノーゲンは幻影騎士軍の姿が一瞬乱れるのを、見逃すはずはない。
幻影の騎士軍の攻撃を躱すと、尻尾でルミリアの頭を薙ぎ払うと、無論幻影の騎士団に攻撃は当たらず、ルミリアはムチで打たれるような衝撃を側頭部に感じながらその場に叩きふせられた。
「幻術師は頭が命、と。我を苦労させる術士が長らくいなかったものでな、いつしか忘れていた。それを思い出させてくれた事には感謝をしておこう。」
幻影の騎士軍は蜃気楼のように消え去り、ルミリアの周りには一般騎士たちが構えを成す。
「それ以上近づくな!!隊長の不意を狙いやがって!騎士道に反する!」
「何が騎士道か。我は龍神族、貴様らの剣の道に合わせる必要がどこにある。長が甘いがゆえに、配下もまた甘い…。戦争をなんだと心得える。まさに弱肉強食、弱者は生きられぬ世界よ」
ヘルノーゲンは1歩、また1歩と近づき、かかってくる騎士たちは軒並み蹴散らしていく。
そして動けないルミリアの頭を踏み潰した。
ヘルノーゲンは何事かと目を見開く
踏み潰したはずだったルミリアの頭は自分の足の横に健在だったのだ。
確かめる間もなく強烈な打撃と回転によって距離を取らされていた。
「ルミリア!大丈夫だおな?!」
「オーガン…?プロ…メタル…?」
霞む視界でシルエットと魔力の質を感じ取り、ルミリアは2人の名を呼ぶ。
「悪い!遅れた。統制を取り直すのに時間がかかっちまった。他の戦地はアルスレッドの騎士団長さんに任せてる。」
「でも…」
ルミリアを抱えあげ、プロメタルは覚悟を決めた目付きでヘルノーゲンを警戒しながら呟く。
「気にすんな。俺の手が届くところにお前がいた。そんだけだ」
二度と自分のせいで仲間を失う訳にはいかないとプロメタルは拳を握る。
ぐらつく視界を何とか整え、ゆっくりと体を起こすルミリア。そこへ回復魔術が施される。
「お、勘のいい騎士がいたもんだな。しかも傷はほぼ全快ときた。優秀な人材が揃ってるなここは!」
プロメタルがニヤッと笑いかけるが、周りの騎士たちは戸惑うばかりで誰1人回復魔術はおろか、何か魔術を起こしている様子はなかった。
「そうね…とっても優秀よ。優秀が過ぎるくらいだわ…」
あくまでローゼンとミレハを連れてきている事は秘匿事項。バレれば味方は混乱し、敵は間違いなくミレハを殺しにかかるだろう。
「やらせないわ…私の部隊も…セクバニアも…!」
「そうか。…死ね。」
ヘルノーゲンは自身と配下の影を操り、全員を串刺しにしようとした。
轟音と共に辺りを見渡すルミリア。
「…なんて魔術なの。」
ヘルノーゲンの操る影は悉く兵士から逸れ、大地を抉っていた。
強大なヘルノーゲンの力に全騎士がたじろいだ。
―――たった1人を除いて。
「皆さんご無事ですか…!隊長、副長除いて皆さんは退避を、他の竜族へ対抗をお願いします!」
騎士たちは戸惑いを残しながらもこの場から離れ、竜族への応戦へ向かっていった。
「お前…確かアステラーナのところの…」
「ギルバード・メトリアスです。それよりも前の龍神族に集中しましょう。束にならないと勝てない相手と踏んでいます。ノーネッツ卿は再びあの騎士たちを出せますか?」
いいえ、と首を振るルミリア。脳内のぐらつきが未だ残っているため、暫くは単純な有幻術しか使えそうもない事をギルバートに伝えた。
話を遮るように飛び交ってくる影の槍は、無意味な方向へと軌道を変えられてしまう。
「無駄です。全ての攻撃には軌道があります。僕の
ルミリア、プロメタル、オーガンはギルバートに対してタタラを重ねてしまうほどの頼もしさを感じ、思わず笑みを零した。
「さすがはアステラーナに認められた男だおな。」
「そうそう。あいつがタタラや俺たち以外を認める事なんざ滅多とない。さすがにこれは疑う必要もねぇな…」
「若い子ばかりに任せてられないわよ。今度は先輩の意地見せなさいよね。」
役者が揃いし西の戦地。勝つのはヘルノーゲンか、セクバニアか。
それを感じ取りながら、ローゼンは腕の中にミレハを抱えながら微笑む。
「いささか暇が過ぎるな。そろそろ窮屈な場所から出てみようか、ミレハ」
「はいっ!!」
そう。西の戦地に規格外の化け物がいる事を彼以外は誰も知らないのだ。
妖狐の娘の道すがら-ミレハ帰郷記・壱- そばえ @sobae_
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