第12話:あの日
中央、東と続き、西側の戦いも熾烈を極めていた。
「防壁を展開しつつ、前進!絶対に怯まないように!隙を付かれるわ!」
西の陣を取り仕切るのは幻術師、ルミリア・ノーネッツ。
横並びの防御陣系を取りながら、後方の魔術師たちによる波状攻撃で地上の竜族を撃退していく。
現状では王国側が有利に見えていたその時、
空から舞い降りしは暗龍ヘルノーゲン。闇を司る四賢龍神が一体。
竜族の攻撃を難なく凌いでいた防御陣系の一部を長い尻尾で簡単に蹴散らし、配下の竜族を流れ込ませる。
たった一撃で陣形を崩された事には今更驚かない。
ルミリアもタタラたちから知る限りの龍神王の力量を教えて貰っているためだ。
龍神王の特徴に似ているが異なる存在と認識し、あの場所には一般兵士を割く意味が無い。
ルミリアは1人ヘルノーゲンの目の前に跳躍する。
「皆はこの場から避けつつ他の竜族を。この場は私が、指示は各小隊長に一任するわ」
指示をしながらこの龍の相手をするなど不可能。
これが望ましい闘いの形だとルミリアは瞬時に理解する。
「我の前に立つなど烏滸がましい。平伏せ。」
ヘルノーゲンから発せられた言葉と共に押し寄せる体の重さに耐えきれず、言われるがままに両膝が地面へ落ちる。
これに似た感覚をルミリアは今でも覚えている。あれが幻術師としての始まり。
―――通常、魔術の発現は幼少期、5歳までに起こる現象であるが、ルミリアはあまりに遅い12歳の年に村を巻き込むカタチで突如として発現した。
人間族に発現するには類稀な「
村の魔術師でもおらず、その1件以来、ルミリアは内に化物を飼う者として気味悪がられていた。
12歳のルミリアにとっては酷い辛い1年が経ったある日、盗賊たちが村を襲撃する出来事があった。
村の魔術師たちも総出でかかるが、戦闘経験が圧倒的に足りず、盗賊たちの手によって瞬く間に蹂躙され、男は殺され、女子供は連れ去られようとしていた。
ルミリアは恐怖に駆られながらも、有幻術を発動。
実体のある幻たちを使役し、村の消火、盗賊たちを返り討ちにした。
ルミリアは村の者たちから感謝されるはずだった。
しかし飛んで来たのは、
『なぜもっと早くやらなかったのか』
『お前が遅かったから多くの者が犠牲になった。』
『自分だけ助かろうとしてるからだろ』
と、まだ13歳になって間もないルミリアに両親も村人たちも罵詈雑言を吐き散らした。
有幻術を見事に制御してみせた若き天才の魔力を乱すには十分な仕打ち。
ルミリアが我に返った頃には、村は壊滅状態。
そう。若きルミリアは我が手で、両親を、自分を育ててくれた村を壊してしまったのだ。溢れる涙は止まる事を知らず、一晩中泣き叫んでいた。
そこへやってきたのが当時、旅をしていたタタラである。
今現在と変わらぬ姿でルミリアの涙を拭くと、状況を知らないはずのタタラはただ一言。
「辛かったんだね。もう大丈夫。僕がついてるから」
その温かみにルミリアは更に泣きじゃくり、タタラとの同意の元、共に旅をする事になった。
タタラに魔術を教えてもらったルミリアはみるみるその才能を開花させ、ゆく町で起こった事件を解決しては街の人々から飛び交う賞賛の嵐に、ルミリアは次第に心を開いていった。
「タタラはどうして私を助けたの?」
時は経ち3年、16歳になったルミリアはタタラへ率直な質問を投げかけてみた。
「僕に出来る事は数少ないけれど、手の届く範囲で助けたかった。その手の届く範囲にルミリアがいてくれた。それに…未来の美人を助けたらその内いい事あるかなって!」
「何それ~バカじゃないの。絶対他の女の子にも言ってるでしょ~…」
ケラケラと軽く笑いながら言うと、タタラは真剣な面持ちでルミリアの頬に手を添える。
「君だけだよ。ルミリア」
途端、ルミリアは自分の顔が熱くなるのをすぐさま感じ、タタラから1日中逃げ回った。言わずもがな、これが彼女の初恋である。
その後、タタラと分かれ、魔術を独学で学びながら修道女の道へ進んだ彼女。
修道女として4年経ったある日、夜の教会を巡回していた時の事。
墓地のほうから奇妙なうめき声が聞こえ、向かってみるとそこには死霊系のモンスターが死体を掘り起こし貪っていたのだ。即座にルミリアはモンスターを祓うが、そこにもう一体、人型がいたのだ。ルミリアの幻術に微動だにせず、ただ興味深そうに見つめていた。
「平伏せ」
ルミリアはその声に両膝から崩れ落ち、頭を地につけて体が震えあがっていた。
その時、突如として強力な光に包まれ、ルミリアの眼前に迫る見知った顔に対し、頬を引っぱたくルミリア。
「痛いなぁ…4年ぶりだって言うのに酷い仕打ちだね」
「無駄にいい顔を近づけるあんたが悪いわよ…でもありがと。また助けてくれた」
それに首を横に振るタタラ。
「助けてなんかいないよ?美人がいたから攫いにきた。」
「…タタラにならいいわ。攫われても」
「いやいや、冗談が過ぎるよ。君は僕のものになるには器が大きすぎる。もっといい伴侶を見つけなさい」
といった話をしたものの、ルミリアはそれ以降タタラと共に旅をしている。
―――そう。あの時とは色々と異なるが、これ以上タタラに助けられるわけにはいかない。
「ほう。我が龍言を受けてなお立つか。いいだろう。名を名乗れ、人間の娘」
「ルミリア・ノーネッツ。この軍勢の長を任されている聖騎士。人のトラウマ呼び起こしておきながら…覚悟なさい。アンタの頭狂わせてあげる」
ルミリアの手に顕現せしは、ローゼン手製の魔導杖〖アバロン〗
杖の顕現と共に有幻術がカタチとなり、創り出すは…
「幻影の
ルミリアが無尽蔵に創り出す幻の騎士たちである。
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