【ある日の会話3】将来の夢は義賊一択

 JR荻窪駅北口前に広がるバスロータリー。誰も注目していないが、何故かわりとしっかりとしたイルミネーションが灯っており、街の夜に花を添えてくれている。


 そんなイルミネーションを見るわけでもなく今日も女子高生2人が、ティッシュ配りをしながら中身のない会話を繰り広げている。



「よいっすー!田中―。今日も背が高くてうらやまちいね~。ティッシュ配りが高身長の秘訣かな?」

「山田、遅刻してくるのはいいけど、せめて申し訳なさそうにしてよ。あと、高身長の秘訣は規則正しい生活だから。だいたい山田もティッシュ配ってるけどちびっちゃいまんまじゃん」

「なにおーーーー!?去年より0.3センチものびてるっちゅうーーーーねん!」

 両手を振り上げながら自分の素晴らしき成長の軌跡を田中に見せつける山田。

「はいはい、今日も20時までに配り終えなきゃなんないんだから、さっさと準備して。あとエセ関西弁やめな」

「ちぇー!田中はギャルなのにノリ悪いなー。ギャルなのに冷静だし、ギャルなのに時間厳守するし、ギャルなのに長距離走得意だし」

「短距離走のほうが得意だよ、勝手に長距離ランナーに仕立て上げないでよ」

「なんだー、今後の日本マラソン界を引っ張ってもらおうと思ったのに」

「ギャルには荷が重いよ」

「荷が重いと言ったら鼠小僧!!!!」

 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、田中の言葉尻を拾い上げ、一番星を指さしながら大声で叫んだ。

「声うるさ、てゆーかなんで鼠小僧?」

「鼠小僧だよ、鼠小僧!日本の歴史上もっとも重い荷物を背負ったと言われてるおじさんだよ!」

「鼠小僧は重い荷物を持ったことで有名になったわけじゃないよ」

「え!?違うの?てっきりでっかい箱を持って屋根の上を駆け回ったことが評価につながったのかと思ってた」

「なんでそんな賞レースの審査員みたいな言い回しなの?鼠小僧は義賊だから評価されたんだよ、まぁこれはフィクションで付け足されたって話だけどね」

「義賊ってなに?」

「義賊っていうのは、悪いことして儲けている人のお金を盗んで、貧しい人にばら撒く人のことだよ」

「めっちゃいいやつじゃん!そりゃ後世に名を残すね!よし決めた!今日の議題は「将来の夢って鼠小僧以外ある?」にしよう!」

「盛り上がってるところ悪いけど、全然あるよ。あーし義賊になりたくないもん」

 それを聞いた山田は大げさに上体をのけぞらせながら、反対意見を述べ始めた。

「いいや!将来の夢は義賊一択だね!だってめっちゃいいやつじゃん!」

「いやいや、良い奴だとしても盗んじゃダメでしょ」

「悪いやつからならいいでしょ!アンパンマンだってバイキンマンをぶっ飛ばしてるけどヒーローじゃん!」

「やなせたかしの描く世界は法整備されてないの、だから暴力に訴えるしかないんだよ」

「やなせたかしの世界やべえ・・・」

「あーしたちが住んでる国は法治国家だから、いくら悪い奴から盗んだとしてもしっかり逮捕されて人生終了」

 サムズアップし首を切るしぐさをした後に華麗なサムズダウンを決め、人生終了という言葉を強く印象付ける。

「人生終了は嫌だなあ。でもでも悪いやつのお金をこの美少女鼠小僧であるところの山田ちゃんが、盗まなければだれがやるっていうんでい!」

 てやんでいべらぼーめといった雰囲気を称えつつ、手のひらで鼻をスクラッチする山田。

「税務署でしょ」

「税務署すごすぎ!てゆーか今思ったんだけど鼠小僧って名前がダサいかも!やっぱ今時の女子高生、流行の発信源が目指すのにふさわしい名前じゃにゃあといけませんね」

 ムムムッと口をへの字に曲げて鼠小僧の新たな名前を考える。

「そうだ!アポカリプス・ビッグバンは?めっちゃカッコよくない?」

「ごめん、だいぶ前から話聞いてなかった、あとその名前めちゃめちゃダサいよ」

「うそ!めっちゃかっこいいじゃん、じゃあじゃあライトニング・ヒューマノイドは?」

「そんなゲーム中盤のダンジョンで出てくる雷属性のロボット兵みたいな名前じゃなくて、せめて義賊とか泥棒っぽいかんじの名前がいいんじゃない?」

「義賊っぽい名前かー、例えば田中ならどんなのがいい?」

「チンチラ小僧とか?」

「鼠小僧インスパイア過ぎない!?あと、ちょっとちんちん見せてくる少年感も強い!」

「駅前でちんちんとか大声で言わないで」

「先に言ったの田中じゃん!」

「冤罪すぎるでしょ、じゃあ山田が鼠部分の新しい名前を考えて、私が小僧部分を考えてガッチャンコすればいいんじゃない?」

「ナイスアイデア大賞2022山田の部受賞おめでとうございます!副賞の熱いベーゼをば」

 わざとらしく唇をとんがらせて田中に迫る山田、ちょっとまんざらでもなさそうな顔で恥ずかしそうにうつむく田中。

「・・・そんなマジな美少女反応されたら困りますぜ田中の姉御」

「うっさい!山田の唇があまりにもカサカサだから直視できなかっただけ!」

「ぷるっぷるだよ!唇!もうほぼこんにゃくゼリーだよ!」

 あまりにも心外だったのか山田は地団駄を踏みながら猛抗議。

「とにかく、鼠担当が山田!小僧担当があーし!いい?」

 田中は持ち前の強引さを遺憾なく発揮してごまかした。

「田中もノリが良くなってきましたなー、ではでは、思考の海にダイブ!」

「あーしはもう思いついてるから、山田の考えた部分は?」

「はい!整いました!鼠小僧の新しい鼠部分は「東京」です!うーん我ながらセンスある感じする!田中が考えた部分は?」

「事変」

「東京事変じゃん!!」

「新宿は~♪豪雨~♪」

「田中めっちゃ林檎ちゃんのモノマネうまい!?」


 今日も女子高生2人の中身のない会話が荻窪の夜に溶けていく。


【人物紹介】

山田

得意科目   数学(なんか答えがわかっちゃうんだよなー)

好きな映画  スパイキッズ2

犬派or猫派  派閥に属したくない

瓢箪から何? 瓢箪←こんな漢字はないよ


田中

得意科目   国語(作者の気持ちをしっかりと汲み取るタイプ)

好きな映画  マレフィセント

犬派or猫派  この質問してくる人苦手

瓢箪から何? 多分山田は瓢箪っていう漢字の存在を知らない


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

JR荻窪駅前で女子高生2人がティッシュ配りをしながらダラダラ喋るお話 荻窪河童 @ogikubogappa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ