最終話「俺達の絆が武器だ」


 闘いが終わり二日が経ち、ヴァンはぼんやりと地下庭園の星空を見上げていた。


「兄さん……」


 兄クインの怒鳴り叫ぶ顔、恐ろしい野望。

 自分やユディアル達に躊躇なく攻撃をしかけ、H63自警団のアジトも破壊し沢山の人間を死に追いやった。

 それを思い出すと、息が出来ない程に胸が苦しくなる。

 ユディアルはヴァンに残酷な場面を見ないように抱き締めて戦ってくれた。

 ほぼ何もできなかった事が情けなくなる。


「ヴァン君」


「ヴァン」


「あ……お二人共」


 いつの間にか、膝を抱え泣いていたヴァンの隣にユディアルとセイがいた。


「よう……まだ疲れがとれないか? まぁ……クインのこと……だな」


「に、兄さんがあんな事をするなんて……沢山の人を殺して……あんな恐ろしいことをこれからしようと思ってるなんて……俺どうしたら……俺が止められなかったせいで」


 暗い草原で膝を抱えて縮こまるヴァン。


「お前は何も悪くない」


 ユディアルがヴァンの肩に手をかける。


「そうです。兄弟だからと言って、彼の罪も生き方もヴァン君が背負うことはありません」


「そう、ヴァンが何を言ったって聞かなかっただろう。元々の計画だったんだよ」


「……最後はなんの力もなれずに、すみませんでした……」


「まだ言ってるのか。人質が全員無事だったのはお前の功績だって言ってるだろう。みんなお前に感謝してる」


「そうですよ。来週また皆が移転した村に会いに行きましょう」


「……はい」


 しかし、ヴァンの心には決めた事があった。


「俺、兄さんを止めなきゃって思ってるんです」


「ヴァン」


「兄さんは絶対に間違ってる。だから俺、兄さんを止めるために……」


 そのためには此処を出て、一人で兄を追わなければならないとヴァンは思う。


「此処を出るというのか?」


「は……はい」


 出逢いからまだ数日、それなのに別れを思うと心が引き千切られる程痛む。

 

「……馬鹿だな、お前だけ一人で戦わせるわけないだろう」


「そうです、ヴァン君はSA-4自警団の一員。私もユディアルも皆も君と一緒に闘います」


「え……」


「あいつの計画の先はいずれ俺達と対峙することになるのは目に見えてる」


「えぇ……彼の計画の犠牲になっているAIを見過ごすわけにはいきません。これからも私達は一緒です」


「ユディアルさん……セイさん……あ、ありがとうございます」


 ヴァンの瞳はまた涙で滲む。

 わしわしと頭を撫でられると、ボロボロと涙がこぼれた。


「ヴァン君、今日魔術師検査の結果を聞きました。貴方にも魔術師の血が流れているようです」


「……そんな……全然知らなかった……じゃあ父さんか母さんが魔術師の血筋……」


「その可能性が高いですね。クインはトリプルミックスでしたから」


 クインはトリプルミックス。同じ血を引いているヴァンにも、その可能性はある。


「俺……昔聞いたことがあったんです。

 この世のことわり

 愛はかがやき金はきらめき水はうるおい火はあたため風はながれて土はさかえる

 この世のことわり

 愛はあなた達を結び金はあなたを守る剣、水はあなたの涙を癒やし、火はあなたの心を暖める。風はあなたの背中を押して、土はあなたの進む道

 ずっと忘れてたこの歌を思い出してばかりいるんです……」


「魔術の教えだな……お前の実家にも何か秘密があるかもしれない」


「俺の……兄さんと俺の家に?」


「えぇ近いうちにヴァン君の家に行ってみましょう」


「はい……巻き込んでしまいすみません」


「ヴァン、俺達は家族だ。水臭いことを言うな」


「そうですよ」


「まぁ、殊勝なところはセイにそっくりだがな。お前もいつも同じような事を言う」


「そうですか私とヴァン君は、やはり似ているのですね」


「俺とセイさんが?」


「はい」

 

 ふっとセイに優しく微笑まれ、ヴァンも微笑んだ。


「ヴァ~~ン!! ユディアル! セイーーー!」


 声がした方を見ると、タカにエリオにアーサー、軽症だが腕を三角巾で固定したイリアスその他大勢がワイワイと丘を登ってきている。


「今日はここで飲み会ね~? 星を見ながらオツじゃな~い☆」


「こんな時間だが、つまみに肉も焼いてやったぜ!」


「全く……こんなとこで泣いてる暇があったらカナリヤを取りに来い」


「……みんな……」


 グイっとヴァンが涙を拭う。

 イリアスから羽ばたいたカナリヤがヴァンの肩に止まった。別れると思うと辛くて迎えに行けなかった。頬ずりすると、また涙が溢れる。


「俺達の強さは機械だの魔術だのミックスだの、そういう事じゃあない」


「そうですね、これが私達の強さ」


 登ってくる皆が笑顔でヴァンに手を振る。


「はい、わかります。SA-4自警団の強さは此処のみんな全員との絆」


「そう」


「そうだ! 俺達の絆が、武器だ――!」


「……はい!」


 これからヴァンをどんな戦いが待っているのかわからない。

 それでもSA-4自警団で

 滅びかけた世界でも、皆と共に戦い生きていく――。


 イケメン☆キズナブキ~完~

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イケメン☆キズナブキ=戦闘美男士☆絆武器 戸森鈴子(とらんぽりんまる) @ZANSETU

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