29☆話「魔術師!?クイン、そして惨劇」


 屋根の上で、雨に打たれながらユディアルと向かい合う男。


 ヴァンがユディアルの元にやっと来れたと安堵し、次に魔術師を見て援護しようとした時だった。

 ヴァンは見上げながら目を疑う。

 ユディアルと対峙しているのは、まさに兄だ。

 自分と同じ髪のメッシュ、同じオッドアイ。


「兄さん! クイン兄さんなのか!?」


『兄さん!?』


「やはりか」


 その声に、屋根の上の魔術師も反応しヴァンを見た。


「……ヴァン!? お前……どういうつもりだ!? お前がこいつらの仲間!?」


「そうだよ! 俺は今SA-4サーフ自警団でみんなを守るために戦っている! 兄さんこそ、まさか……ここの奴らに味方してるの!?」


「お前が……こいつの仲間だと……? しかしやっぱりお前もミックス・コミュニケーターか。血は争えないんだな……」


 やはりクインはヴァンの兄。そしてミックス・コミュニケーター。

 ユディアルは動揺を隠し、いつでも斬撃を繰り出せるように剣先を向けている。


「なんでお前がここにいる? 父さんはどうした」


「と、父さんは……死んだよ! 身体を壊して!」


 ヴァンの脳裏に一人でした埋葬、祈り、辛さ、そして心の底にあった兄への怒りを思い出す。


「……そうか……まぁ仕方ないことだ」


 少し表情を変えたが、クインは何もなかったように話す。


「仕方ないって……! に、兄さんが父さんが止めるのも聞かないで出てったから父さんは気に病んで病気になったんだよ!?」


「あいつは俺もお前にも何も教えず、あの山で一生を終わらせようとした鬼畜だ」


「父さんが鬼畜……?? 何言ってるんだよ、ねぇ兄さんもうやめてよ! ホブロイの仲間なんかして情けないと思わないのか!?」


「ホブロイみたいなクズ野郎の味方なものか! 俺は此処にあるモノが必要で取りに来ただけさ……」


 雨は一層酷くなり、雷が鳴り始めた。


「……兄さんは何をするつもりなの?」


「俺は……国を作るんだよ、魔術の国だ。統治したあとは、くそったれの機械どもは全部ぶっ壊す」


「なんだと……」 


「何を言ってるんだ兄さん」


「俺を……ミックス・コミュニケーターなんかおぞましいものを作り出し、魔術との暴走で魔機なんかを生み出しやがったAI機械などこの世に不要だ! AIに使役されてる人間どもも、全て滅べばいい! これからは人と魔術の時代になる……! 純粋な魔術だけの世界が、この世の理想なんだ!!」


 雷の光が、クインの雨に濡れた狂気の顔を照らす。


『あれは……』


 クインの胸元に、光り輝く石が見える。

 雷と共鳴するように、光の帯がオーロラのように光る。


「あ、あれはなんですか!?」


『魔石……!』


「魔石か……! まさか此処の地下に!?」


「そうだ、これを手に入れるために馬鹿共と手を組んだだけさ。魔石を手に入れた俺は強大な力を手に入れた……俺はトリプルも越えたクアドラプル……AIを使役し、魔機をも操る……!」


「クアドラプルだと!」


『AIを使役……!?』


 その時クインの方向から哀しそうな、か細い声が響いた。


『……セ……イ……ご、め……んなさい……』


『……その声は……サシャ!? サシャなのですか!?』


 初めて感じるセイの激しい動揺。

 それはヴァンにも、ユディアルにも伝わる。


『……ごめん……なさ……い……』


「勝手に話をするな、クソAIが」


『セ……たす……』


 クインが自分の胸元を叩くと、声は塵のように悲しく消えていく。


『サシャ!!』


 悲痛なセイの叫びが聞こえる。


「お前……まさかAIの墓を荒らし、意識だけを取り出し魔石で使役してるのか……」


 ユディアルの怒気が雨に打たれても、オーラのように燃え上がるのがヴァンには見えた。


「道具は使うものだ、何が悪い」


「兄さん……なんていうことを!!」


「許されることじゃあないぜ……クインよ」


「お前らの許しなど、請う必要はないね」


 怒りに燃えるユディアルを前にしても、クインは怯える様子も見せない。


「おい!! このクソ魔術師がぁ! 早くこいつらを殺せ! 追い出せ!」


 中庭に銃を撃ちながら現れたのはホブロイだ。


「ふん! ここまで醜いと、ただの人間でも無価値でしかないな」


 見下ろすクインが吐き捨てる。

 その時エリオからセイに通信が入り、それはヴァンとユディアルにも伝わった。


『聞こえる!? 全員避難はしたけど、山の奥から魔機が大量に!!』


「くそ! エリオお前たちは逃げろ!!」


『あんた達も避難してぇ!』


「さぁ! 魔機よ! 襲え! 馬鹿な人間もAIも殺して火を放て!!」


「兄さん!」


「ヴァン、お前は俺と来い。クソな血筋だがミックスは今は使わなければいけない力だ。俺の下で働かせてやる」


「い、嫌だ!!」


「なんだと」


「兄さんは間違ってる!」


「このバカが!」


「バカなのは兄さんだ!!」


「なんだと!!」


「魔術師! 兄弟喧嘩なんかしてる場合か!! このクソ魔術師! 金の分だけ働け!」


「うるせぇ! 俺に指図するな!」


 山から飛んできたのか、アジトの迷宮も飛び越えた魔機が一瞬でホブロイの首を噛みちぎった。

 頭のなくなった死体が、その場に転がる。


「ヴァン、お前にはいつも失望ばっかりだったよ。じゃあサーフとやらと心中しな。骨まで喰われろ」


「……兄さん! 待ってよ! 兄さん!!」


 弟に言うには、あまりに酷い言葉。

 止める言葉も聞かずに、クインは屋根を歩いて消えていく。

 そしてその代わりに無数の魔機が降ってくる。姿はまるで甲虫類のようでカタカタカタカタと牙と角を剥き出し、屋根を伝い群れになって襲いかかってきた――!!

 ユディアルはヴァンの元へ降りると、ヴァンを抱きかかえた。

 

『来ます! ユディアル!!』


「ヴァン! 捕まってろ!!」


「兄さん!」


『最大での接続を……! ユディアル!!』


「あぁ! 頼むセイ!」


 そこからは地獄絵図だった。

 ユディアルが片手で刀を振るい、魔術を放ち、魔機を殲滅していくが、アジト内に侵入した魔機。

 魔機達は、殺さないよう拘束したH63の団員を噛み殺していく。

 クインが火を放ったのか火災も起こり、ユディアルが全ての魔機を破壊した後には燃え尽きたアジトと死体だけが残った――。


 SA-4自警団と、人質に死人は無し。

 ユディアルはヴァンには無残な焼け跡は見せないように戦いのあとも抱いたまま、SA-4自警団に帰還した――。


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