28☆話「ユディアル吠える」


 ユディアルはヴァンと別れ、一人アジトのぎ迷宮を走る。


「!」


 鋭い雷の矢が、窓から突っ込んできた。

 身を翻し、ユディアルは別の窓を突き破り外へ出る。

 そこはアジトの真ん中に位置する広い中庭。

 吹き抜けた灰色の空から、雨が降り出していた。


 ユディアルが見上げたその先――突き出た鉄塔の上。

 そこに立つのは、ローブに包まれたサングラスの男。


「お前か……」


「また会ったなトリプルミックスのユディアル」


「やはりあの時の魔術師か、俺に楯突いて生きて帰れると思うなよ!」


「その自信を削いでやるよ!」


 男が天に手をかざすと、雷の矢がユディアルに向かう!

 しかしジャリと汚い泥水に踏み込むと、ユディアルは刀を抜いて飛び上がった。

 その跳躍力は男の立っている建物の三階に匹敵する高さにも達している。

 風の魔術を応用しているのだ。


 緑の刀が光る――!


 魔術を両断! ではなく転がったのは真っ二つになった小型の昆虫型魔機だった。


「! やはりお前……!」


 この男が自分を守るために魔機を操ったのだ――。


「ふふ……そうだ、俺だけの力だぁ!」


「雑魚の魔機がいくら湧いて出てこようが、斬り捨てるだけだ!」


 屋根に着地したユディアル。

 その背後から襲いかかる魔機も、斬り落とす。

 二匹同時に雷で粉砕した。


「こんなもんかよ!」


「くっ……」


 魔術師もユディアルの戦闘力の高さを見誤ったのか、距離が近すぎた。

 またしても魔術師に向かって、ユディアルの刀が振り落とされる――!


「これで終わりだ!!」


 しかし、魔術師の男も剣をくり出し弾いた。


「なに!」


 ユディアルの刀は今はセイの干渉は最小限にしてはいるが、刀の強度は保たれている。

 通常であれば、剣ごと叩き切る事も可能なはずだ。


「ふはは」


「その強度……」


 男の剣の強度は異常だ。


「お前だけが奇跡の存在じゃねえんだよ!」


 一旦ユディアルは距離をとり、中庭を挟んだ向かい側の屋根に着地する。


「まさか、お前もミックスか……?」


「あぁそうだ……自分だけが特別だと思うなよ!」


「なんだ……自分の存在をこじらせてるのか?」


「うるせぇ……」


「俺と張り合いたいなら、それはもう大歓迎だ、やれるだけやろうぜ」


「なんだと」


「俺を木っ端微塵にしてくれるか……?」


 ユディアルの口角が上がる。

 そしてそこから紡がれる詠唱。


「お前も奇跡なら、俺を木っ端微塵にしてくれよ!!」


「くっ!!」


 ユディアルの炎が巻き上がり、男を襲う。そこからの斬撃。

 ユディアルの刀に対峙するのは細剣、レイピアだ。


 男はレイピア使いだった。


 炎と炎が舞い、お互いの防御結界が煌めいた。

 雨が蒸発し、チリチリと刃が火花を散らし睨み合う……!

 ふわりと刀から緑の光が舞う。

 ユディアルは正気に戻るように一度深呼吸した。


「何を求めているんだか知らないが、ホブロイのようなクソ野郎に手を貸してお前もたかが知れてるぜ」


「ホブロイなど、ただの足がかりだ」


「足がかりで女子供食い物にしてる奴らに、手を貸すんじゃねぇええ!!」


「AIに飼いならされてるお前に、言われたくねぇよ!!」


 屋根の上に炸裂する光と光。


「お前だってレイピアの強化にAIに協力してもらっているだろうが! どこのAIだ! 名前を教えろ!」


「はん! 俺はなぁ使役してるんだよ! お前とは違う!!」


「使役だと!?」


「そうだ! クソなAIなんぞに俺は支配されない……っ!!」


「クソはお前だっ!!」


 速度が上がるユディアルの刀。

 男は既の差で避けたが雨で滑った一瞬の隙に、頭を覆ったローブが切り裂かれた。  

 翻った衝撃でサングラスが落ちる。


「……お前……っ」


 魔術師の長髪は乱雑に後ろでまとめられているが、金髪に青色の髪がメッシュで混ざり合っている。

 右の瞳は美しい湖が凍りついたような薄い青色。

 左目は、砂漠の砂のような赤い黄金色……。


「その瞳、その髪……」


 ヴァンと同じ髪とオッドアイを魔術師の男は持っていた。


「兄さん!?」


 地上からヴァンの叫び声が響く。

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