綿菓子の毒ハク

本編

あたしは綿菓子でした。

ブルーハワイ色の天球に漂う入道雲みたいな食べもの。

口腔内に取り込まれたそれは、東京の雪に似ています。

瞬く間に溶けて水になってしまうから。

でも、天使が舞い降りてきたような幻想的な佇まいと儚い甘さで人々を魅了するのです。



弱いくせに無防備なあたしは、

次々に群がってくるムシたちに少しずつ切り取られ、食べられていきます。

あたしは為す術がないので、その様子をただ眺めていました。

その最中、あたしはずっと笑っていました。

そんなあたしを「いい子だね」と言うムシもいれば、「気味が悪い」と言うムシもいました。

それでもあたしはずっと笑っていました。

自分の身体が消えてなくなっていく様がやるせなさ過ぎて、笑うことしかできませんでした。

泣いたら、あたしの身体は溶けてしまうので。



笑って……

笑い続けて……



そこで夢が醒めました。

あたしは泣いていましたが、ヒトなので身体は溶けませんでした。

泣きながら、あたしがヒトであることを思い出しました。

ヒトには感情があります、意思があります。

ムシに食べられてきたそれを、あたしはもういちど取り戻してもいい、のでしょうか。



あたしは、

  なにが、

    したいんだっけ―――?







あ。あ、あああ、あああああ、



待って、かえして!

  返して返して返して!

    だってそれはあたしの―――!



あたしのミライ。

捨てたはずのあたしのミライ。

あたしは綿菓子だけど、ムシに食べられるために在るものじゃないから。


全部やり直すために、あたしは初めて目を開けました。

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綿菓子の毒ハク @_3_ecila_

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