第132話 反抗期な妹を演じる猫かぶり

 どうしよう、まさかの事態である。

 萌夏が俺達のグループ通話に参加することになってしまうとは……。


『妹ちゃんいくつ?』

「……何歳だと思いますか?」

『中二とか!?』

「さぁ、どうでしょう。ってか教えないし」

『うわー、ヤバ! 超反抗期じゃん!』


 興奮した様子の与田さんに引きつった顔で声を出す萌夏。

 どうやらローテンションモードで行くつもりらしい。

 確かに、明るい雰囲気で応対したら三咲萌夏だとバレかねないし、この機嫌悪そうな声音の方が身バレ防止にはなるだろう。

 まぁ俺からすれば普段の妹なんだが。


『三咲君に、前に嫌味な妹って聞いてたけど、なんか納得』

「ッ!?」


 目を見開いた萌夏に見られた。

 ……すみません、あの時は話の流れ的につい。

 それに、嫌味が多かったのも事実だ。


 と、開き直ったのか萌夏は鼻で笑う。


「あんた友達に妹の話とかしてんの? きっも」

「……」


 久々にガチトーンでドン引きされた気がする。

 ジト目を向けるとさっと顔を背けられた。

 こいつ……。


『顔は誰似?』

「チャラそうな男の人には教えませーん」

『うわ、マジでふてぶてしいじゃん。絶対可愛いだろ、なぁ三咲君』

「……知らん」


 可愛いも何も、俺らの学校でてっぺん張ってる美少女なんですが。


 しかしながら、生きた心地がしないな。

 どんな状況だよ全く。


 そしてその間に何故か溜まっている着信。

 見るとグループとは別の個別チャットで瑠汰からメッセージが溜まっていた。


『萌夏ちゃんだよな? 大丈夫なのか?』

『ちょっと楽しんでて草』

『鋭登、与田さんに萌夏ちゃんの自慢してたのか? 確かに可愛いけど、流石に萌夏ちゃんのこと好き過ぎだろ。シスコン君じゃん』


 とかなんとか。

 よし、俺に味方はいないらしい。

 悲しすぎて涙がちょちょぎれそうだ。


 とりあえず次会った時は、あいつのツインテールを切り落としてやろう。


 と、いつまでも会話を続ける必要なんてない。

 若干与田さんたちの食い付きも収まったので、萌夏と頷き合う。


「じゃ私寝るから。うるさくしたらスマホ壊す」

「物騒な事言うんじゃねぇ」

『おやすみ妹ちゃーん』

「……おやすみなさい」

『え、ヤバい! ガチかわだよ!』


 反射的に返事をした萌夏にまたも喜ぶ与田さん。

 ともあれ、上手く萌夏を部屋の外へ逃がすことに成功した。


 安堵していると元原君の声が聞こえる。


『朱坂は三咲の妹のこと知ってるんだよな?』

『はっ!?』

『なんか怪しい反応……』


 相変わらずあほ丸出しの反応する萌夏に、与田さんも反応してしまった。


『どんな子なの?』

『……え、えっと。まぁまぁ可愛いかな?』

『ふーん』


 電話越しだと目の泳ぎや挙動不審さがバレにくい。

 きっとスマホの前でぶるぶる震えているんだろうが、与田さんたちは知る由がない。

 そのまま追及も無しに話は進んだ。

 簡単に集合場所や待ち合わせ時間を決めた。




 ◇




「入るぞ」

「……どうぞ」


 通話後、俺は隣の妹の部屋に入る。

 萌夏はベッドの上で体育座りをしていた。


「……さっきはごめん」

「いいけど、急に入ってくるのはやめろよ?」

「ノックはしたんだけど」

「え、そうなのか?」


 通話に夢中で俺が気づいていなかっただけらしい。

 となると今回の戦犯は俺か……。


「マジですまん」

「いいんだよ。なんにせよ、部屋に入っちゃった私のせい。あと話の流れとは言え、キモいとか言ってごめんね」

「気にしてないよ」


 やっぱり萌夏に謝られるとむずむずする。

 気遣ってくれるのは嬉しいが、今までの関係性もあるので慣れはしない。


「ってか、あんなタイミングで三咲萌夏が俺の妹だってバラそうとするなよ」

「まさかああいう強引な回避をするとは思わなかったもん」

「俺だって心の準備が必要なんだ」

「それは、そうだね……。ごめん」

「……いや、いいんだけど」


 最近の萌夏はちょっと、アレだな。

 若干メンタルが不安定と言うか、見ていて不安だ。


「大丈夫か?」

「うん。平気、気にさせてごめんね」

「なんでもかんでも謝るな」

「はいはい」


 俺の言葉に、萌夏は大きくため息を吐く。

 くそデカため息だ。


「鋭登、週末遊ぶんだ?」

「おう。修学旅行メンバーで親睦会だな」

「楽しそう。でもカップルが一組混じってるのってどうなの?」

「さぁ、俺らはいつもそんな感じだけど」

「確かに、あんた達は嫉妬の対象ってより微笑ましいもんね」


 俺と瑠汰は文化祭の時から、ずっと一緒だった。

 周りから見れば付き合っているのと同然だっただろうし、そこに嫌な視線を感じた事はない。

 単に瑠汰が可愛すぎるが故だな。

 あいつの笑顔はみんなを幸せにする。


「……にやけんな」

「に、にやけてねぇし」

「……ほんと申し訳ないね。私達のごたごたに瑠汰を巻き込んじゃって」

「全くだ」


 それに関しては俺もここ最近思っていた。

 俺達は互いに笑い合った。


「まぁ、今日は何とか誤魔化せたしよかったな。やっぱりお前は演技上手だよ」

「嘘つきって言ってるの?」

「そうだな」

「うっざー。まぁ事実なんだけどね」


 萌夏の猫かぶりは、そう簡単に剥がれるものではない。

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金髪ロリだったツンデレの元カノが黒髪巨乳美少女になって三年ぶりに俺の前に現れた。丁度いい機会だから嫌味な双子の妹を見返してやろうと思う。 瓜嶋 海 @uriumi

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