第131話 妹ちゃん

 風呂から戻ってスマホを見ると、何やら大量に通知が来ていた。

 送ってきた奴はただ一人、瑠汰である。


『おーい』

『なんかグゆ招待来てゆ』

『あ、グゆじゃなくてグループ』

『起きてる?』

『明後日のこと話すんだって!』

『死んでるのか!?』


 ざっとこんな感じのメッセージがいっぱい来ていた。

 相変わらず落ち着きがないのは、対面会話でもメッセージでも同じこと。


 言われて確認したところ、瑠汰からグループへの招待通知が来ていた。

 メンバーは瑠汰と、そして与田さんに渡辺君に元原君だ。

 要するにいつものメンバーという奴だな。


 大して予定を決めてなかったし、メッセージでまとめるのか。

 山野さんがいないのはただ単に通知を見ていないだけだと思われる。


『風呂入ってた』


 とりあえず瑠汰にそう返信し、俺はグループに参加する。


『あ、三咲君来た』


 与田さんのメッセージがすぐきてビクッとした。

 と、次の瞬間グループ通話が開始される。


 初めて目にするグループ通話という機能。

 ぼーっとしているうちに既に三人が参加している。

 瑠汰と俺だけが通話に入っていない。


 これ、入っちゃっていいのか?

 使ったことがないので少々緊張する。

 同じ事を思ったらしく、瑠汰からも『どうする!?』とメッセージが。

 やはり似た者同士か。


 俺は思い切って通話に参加した。

 深いことは考えず。


「こんばんは」

『お、三咲君じゃん。よろー』

『瑠汰ちゃんはまだ?』

「あー」


 渡辺君に言われ、画面を見ているとすぐに瑠汰も参加してきた。


『瑠汰ちんやほ』

「あ、こ、こんばんは!」

『マジウケる。二人揃って同じ事言わないで』


 電話越しで聞こえてくる与田さんの笑い声。

 それを聞いているとなんだか笑えてきた。


『ほんと仲良いなお前らカップルは』

『何言ってんの元原。紗樹と仲良いじゃん』

『彼女持ちがよー』


 そう言えば元原君はあの新山紗樹とか言う女と付き合っていたんだったな。

 あの人は口が悪いので少し苦手だ。

 ナルシス陰キャとか、とんでもない二つ名をつけられたし。


 と、思い出していると与田さんの声が聞こえる。


『明後日どーする? 遊園地とかは、どっかのお二人さんが飽きてるだろうからアレだけど?』

『べ、別に飽きてはないんだが!?』

『瑠汰ちん、せっかく名前出さないであげたのに』

『あ。……ハメたな?』

『いや、オレらも知ってるし』

『そうそう。三咲も意外とアウトドア派なんだな』

「……」

『ほんと、遊園地とか良いじゃん。オレも久々に行きてーなー』


 俺は渡辺君にチケットを貰ったから遊園地に行っただけなのだが。

 そこに関しては元原君に伝えていなかったらしい。

 渡辺君ありがとう。


『だから明日は県外の――』


 与田さんがそう言って目的地を示そうとした時だった。

 ハプニングが起きる。


「鋭登?」

「も、も――うわお!」


 変な外国人ノリみたいになってしまった。


 突如として部屋に入ってきた眼鏡の女。

 我が双子の妹の姿を見て、咄嗟に名前を呼びそうになったところを必死に修正。

 しかし、電話越しに訝しげな声が聞こえる。


『ん? 三咲君の声? どうしたの?』

「……」


 やばい、どうしよう。

 電話越しの声に何かを察したらしい萌夏が目を見開き、そろりと後ずさる。


「え、えっと。なんでもn――」

『あ、もしかして妹ちゃん?』


 逃げ場を失くされてしまった。

 与田さんには妹がいると話していたんだった。

 電話の向こうで渡辺君と元原君がその話題に食い付いている。

 はわわ……。


「……ごめんっ」

「……いや、俺が悪い」


 スピーカーモードを解除して小声で話す双子。

 完全に迂闊だった。

 萌夏が部屋に入ってくる可能性や、物音を立てる可能性を考えていなかった。

 いや、部屋に勝手に入ってくるのはこいつが悪いが。


 無言の瑠汰。

 彼女からは個別に『今の萌夏ちゃんの声!? 流石にフォローできないんだが!』というメッセージが来ていた。

 流石に瑠汰は気付くよな。


 このままなんとか話題を逸らそうと俺は試みる。


「え、えっと。そうだぞ。妹の声だ。と、そんなことより……」

『えー、もっと聞きたい。話に入れよ?』

「なんでだよ!」

『それいいな』

『オレも妹ちゃんの事気になるー』

『修斗、人の妹を狙わない』

『そーいうのじゃねえよ』


 みんな乗り気だ。

 だがしかし、俺まで乗るわけにはいかない。


「いやちょっと、それは流石に……」

『何、もしかして妹じゃなくて従妹の声とか? 萌夏いるの?』


 えぐい所を突かれ、ほぼ過呼吸の俺。

 そんな俺に、諦めたような顔を浮かべる萌夏。

 まるで今から全てを話そうとせんばかりの顔だ。


 ……それはまだ、困る。

 仕方がない。


「妹の声だよ。なぁ?」


 俺は無茶ぶりを要求した。

 信じられないと目を見開く妹だが、元はと言えばお前が勝手に部屋に入ってきたのが原因だ。

 彼女はそのまま諦めたように口を開く。


「え、お兄ちゃんの友達の……方ですか?」

『妹ちゃん!? 声マジ可愛い!』

「そんなことないですよ。……ってかあんた友達いたんだ」


 事態は泥沼だ。

 ぎこちなく、以前の嫌みたらしい妹モードで対応する萌夏。

 とんでもないことになった。

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