第130話 煩悩
「あぁぁぁ……」
頭が痛い。体が重い。
別に病を患っているだとか、熱があるとかそういうわけではない。
この不調の原因はただの煩悩だ。
先程の瑠汰との会話で色んなものを想像してしまった。
行為の妄想というより、そんなことを考えるレベルであいつが俺の事を好いてくれていることを考えて嬉しくなる。
嬉しすぎてハゲそうだ。
帰ってからずっとベッドに突っ伏して悶えていた。
今頃瑠汰は何してるんだろう。
と、そこでふと俺は冷静に考えた。
世界一可愛い自分の彼女が、そういう行為を致すことを視野に入れて交際してくれている。
今はまだ家庭問題のごたごたや、向こうの親父さんの事があるため微妙だが、このまま交際が続くと考えると、だ。
手を出さないというのは逆に失礼ではないのか。
でもでも、俺達はまだ高校生で。
万が一失敗してできてしまったりしたら、どうするんだ。
俺は責任が取れない。
せっかく優しくなってきた妹に、またゴミを見るような目で『死ね』と言われる光景が容易に頭に浮かぶ。
うわぁ、怖すぎだろ。
なまじリアルに想像してしまい、鳥肌が立った。
瑠汰は『もう高校生なんだわ』なんて言っていたが、やはり俺達は未成年。
でもでも、もし向こうから誘われて、俺は断れるのか?
あのツインテールの涙目+上目遣いに耐えうるような強靭な精神を持ち合わせているか?
答えは恐らく否だ。
というより、もはやあいつのそんなお願いを断れるのは強靭ではなく狂人だ。
とかなんとか考えていると、玄関が開いた。
すぐに俺の部屋の前を通り過ぎ、隣の部屋に入ったのが分かる。
どうやら妹が帰宅したらしい。
スマホをよく見ると、俺が帰宅してから一時間半は経っていた。
どんだけ悶えてるんだよ、俺。
『あぁぁぁ……』
ベッドに寝転がっていたため、隣の部屋から漏れる声が壁越しによく聞こえる。
萌夏は萌夏で何を考えているのやら。
やはり双子なもので、呻き声の種類は変わらないらしい。
「とりあえず明後日のお出かけを楽しむか」
瑠汰とのあれこれなんて先の事を考えても仕方がない。
目の前の事と向き合うのが大切だ。
今は週末の事だけ考える。
そういうのはそれこそ直面した時に考えればいい。
……いや、それは少し違うか。
心の準備もあるし、アレも購入しておいた方がいいのか。
彼女がいると言うのに浅はかな俺は、未だアレを購入したこともない。
煩悩を洗い流すべく、シャワーを浴びに行く。
服を全て脱いで精神統一。
……筋トレはしておいた方が良いか?
ってだから余計な事は考えるな三咲鋭登!
「目の前の事に集中だ!」
「ひっ!」
か弱い声が聞こえたので振り返ると、何故か萌夏がいた。
「何故いる」
「えっ? あ……いやその、考え事に疲れたからシャワー浴びようと思って」
「流石双子、同じことを考えていたらしいな」
やや自分のテンションがおかしいような気もするが、気にしない。
「何を考えていたんだ?」
「……あんたとの関係性を言うか言わないか」
「お前も悩みが多くて大変そうだな」
「あんたは何考えてたの?」
「俺はその……なんでもいいだろ」
「はぁ? なんで私だけ言わなきゃいけないの。不公平じゃん」
「……」
確かにその通りだが、実の妹に彼女とのあれこれの話なんてしたくない。
こいつもこいつで聞きたくないだろう。
無言で立ち尽くしていると、萌夏は呆れたように笑った。
「ってか、ずっと裸だけどいいの?」
「……あ」
「じゃあね。下見てないから気にしないで」
「話を続けたのは俺だが、多分逆なら今頃ボロカス言われてるよな」
「こんな美少女の全裸見て罵倒で済むなら安いじゃん」
「最近はネガティブだったのに、意外と自己肯定感が高いんだな」
「瑠汰よりは可愛くないってだけで、私が可愛いのは変わらない」
この考え方を見習いたいものだ。
扉を閉めて去っていく妹を見送り、俺もシャワーを浴びに浴室へ入る。
「なんで俺、全裸で妹と会話してるんだ……?」
しばらく冷水を浴びながら再び悶えた。
俺は、馬鹿だ。
煩悩に振り回される憐れなチェリーボーイである。
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