第3話 涙の意味
「死産とは妊娠22週以降で亡くなった場合を指します。それ未満は流産と言います。ですが、12週を過ぎている場合は死産届が必要となります。」と知り、それはなんだか腹圧で覚えにくいな、と思っていたときに、ふと一年前のことを思い出していた。
当時5年だった私は産婦人科を回っていた。近年、周産期医療に力を入れようとのことで、産婦人科を長く回る必要があったが、これは興味のない学生にとっては、拷問であった。しかも、指導してくれる医師がかなり厳しい方で、なかなかストレスが溜まっていた。
ある日、外来を一日中見学するというかなりキツイものであったが、ようやく訪れた昼休みを満喫、もとい怠惰な時間を過ごしていた。心労を察してか友人がコーヒーを奢ってくれ、再び元気が出て、午後の外来に向かった。
そこでは、私は適度に先生に質問を投げつつ、時間が過ぎるのを待っていた。
外来にふくよかな女性が訪れた。どうやら、妊娠20週前後であったがどうも胎児の様子がおかしいから、大きな病院で見てほしい、とのことで紹介されたようだった。しかし、その紹介されたのが四週間前であった。先生は「どうしてもっと早く来なかったんですか」と問うも、いまいち釈然としない答えしか返ってこなかった。とりあえずエコーで胎児の様子を確認しようとしてすぐにわかった。わかってしまった。心臓が動いていなかったのだ。先生の目つきが一瞬鋭くなったのを私は見逃さなかった。
「残念ですが、赤ちゃんはすでに亡くなっています」そう先生は告げた。そこからはよく覚えていないが、彼女は泣いていたような気がする。そんな出来事があっても、私の心にさざ波程度しか心は動かなかった。
彼女は、赤ちゃんが死んでしまったことが悲しくて泣いたのだろうか、それとももっと早く病院にかかるべきだったと後悔して泣いたのだろうか。それとも、何か別の理由があったのだろうか。わからない。
しかし、そんなことがあっても涙は一切出なかった。そして私はすっかり忘れていた。死というものに慣れていく感覚だけを残して。
僕と友人とそして... 胡乱な烏龍茶 @Gobbledygook
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