第2話 苦しみの理由

 4年生のとき、私は実習として病院に通う日々が続いていた。素人同然なので、何をするでもなく、いろんな科を回り、その中で自身の行きたいかを探すのが一般的である。私も例にもれず、迷いはしていたものの、特に興味の持てる科も見つからずに怠惰に過ごしていた。


 外来見学をしていたところ、一人の女性がやってきた。どうやら、近所の眼科のクリニックからの紹介。というのも、紹介状は見せてもらえなかったからだ。

 30代前半くらいの方で外見としては普通だったが、少し元気がなかったようにも思えた。話を聞いていると、どうやらもともと「ものがダブって見える」という状態が出現しては消えて、を繰り返していたので、心配に眼科を受診したところ、どうにも眼科の疾患ではないらしいとのことで大きい病院に紹介となった、とのことだった。


 色々話を聞いているうちに、腕が痺れたり、ふらついたり、腕が細かく震えたり、といった様々症状があったらしいことがわかった。やる気のない学生の私は、そんなものか、くらいしか考えていなかった。ちょうどそのタイミングで、別の予定が入っていることを知っている医師が「そっちに行ってきていいよ」とのことだったので、退出した。


 その日の夜、私は外来で診た患者さんの疾患が気になり、調べていた。「複視 麻痺 若い女性」で調べると、どうやら視神経炎なのではないか、という結論に至った。そこで眼科の資料を見返してみると、「視神経炎は特発性(原因不明、ということ)のこともあるが、視神経脊髄炎や多発性硬化症のこともある」と記載されていた。そこで私は納得し、それ以上調べることはなかった。


 話は現在に戻り、医師国家試験の勉強をしていたところ、視神経脊髄炎は「予後は悪い」というのがどうにも気になる。そもそも、視神経脊髄炎の症状は、視力障害や複視(ものが二重に見えること)、ふらつき、四肢麻痺、膀胱直腸障害(尿や便がでにくかったり、逆に尿や便が無意識に漏れたりすること)といった、無論辛いものだが、そこまで生命に直結しないように思えるからだ。そこで予備校の授業を見返してみたところ、講師はこう言っていた。


「多発性硬化症は実は生命予後がかなり悪いんですよ。治療に長い期間がかかるのもあるのですが、若い女性、膀胱直腸障害。もうわかりますよね。」

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