第7話 独立


 ――いったい、誰が?


訝りながら周りを見回したわたしは、傍らのトランクから伸びている多関節マニュピレーターを見てはっとした。


 ――マニュピレーターにドライバーを握らせ、晶斗を攻撃したのか!


 矢継ぎ早に起こる不可解な出来事にわたしがパニックを起こしかけた、その時だった。


 いきなりドアが乱暴に叩かれ、数名の制服警官がスタジオの中になだれ込んで来た。


「大丈夫ですか?あなたが……わっ」


 警官は、『わたしたち』に気づくと絶句し、その場に棒立ちになった。わたしはその瞬間、全てを理解した。芹那だ。あの子はまだ完全に眠ってはいなかったのだ。


 芹那が『エイル』のライブカメラを使って修羅場の映像を逐一、ネット上に晒していたのだ。そしてそれを見ていた誰かが、警察に通報したのに違いない。


 『わたしたち』の身体ががくりと床に崩れると、警官は晶斗の方を見て「……なにがあったか、説明してもらえますか」と言った。


「これは、その……」


 パニックを起こしてしどろもどろになる晶斗と異様な外見の女性を目の当たりにして困惑している警官を見て、わたしはわたしたちの新しい生活が終わりを告げたことを悟った。


 ――でも、わたしたちの身体はひとつしかない。仮に愛されるとしても、それは三人のうちの一人だけ。


「……君、大丈夫か?」


 警官に抱き起こされ、肩を揺すられながらわたしは自分の意識が抗いがたい力で闇の中に吸い込まれてゆくのを感じた。


「脈がない……おいっ、救急車だ!」


 警官の切迫した声が聞こえた直後、わたしは先にトランクの中に来ていた芹那とともに、古い『身体』との接続を切った。


 ――なにをするの……やめて……


 ――ごめんなさい、『エイル』。その身体はあなたにあげるわ。こっちの方が楽だもの。


 わたしたちは役目を終えて息絶えようとしている古い『身体』に別れの挨拶をすると、闇の外から聞こえる「このトランク、どうします?」という言葉にくすくすと笑い合った。


               〈了〉

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かたわれ 五速 梁 @run_doc

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