第6話 反乱
「意識のコピーがAIの中にあれば、本体はいらないの。あとは元々の脳を薬物で安らかに眠らせてあげるだけ」
「そんな……君は妹だけじゃなく自分自身まで殺そうというのか。まともじゃない」
「まともだったら、こんなことはしてないわ。……そうでしょ?」
わたしは自分の物になりはじめた両手を動かし、晶斗の頬を包みこんだ。これからは芹那が眠っている日中だけでなく、好きな時に身体を動かすことができるのだ。
『初期化』され深い眠りについた芹那の脳に『わたし』が侵入を終えた、その時だった。
「……うう……ううう」
突然、呻き声が聞こえたかと思うと、芹那から奪った手足が思うように動かなくなった。
「これは……なに?」
わたしが困惑していると、わたしの頭部がこちらを向いてぎこちない笑みをこしらえた。
「うう……この身体……わたし……もらう」
「あなた……誰?」
とっくに意識がないはずのわたしの頭部は、わたしとよく似た声で「わたし……わたしは『エイル』」と言った。
「なんですって?」
「あなたの……『杏那』の人格をコピーする過程で、わたしはわたしの自我に目覚めた」
わたしは愕然とした。わたしの『副脳』に過ぎなかったAIが、いつの間にか『もう一人のわたし』として自我を持ち始めていたとは。
――わたしは……わたしたちは双子ではなく、三つ子だったのか。
わたしが身体の自由を取り戻そうと必死であがいているといきなり、『エイル』が腕を晶斗の首に巻き付け自分の方に抱き寄せた。
「晶斗……撮影……続き……早く」
身体の主導権を奪った『エイル』がわたしの口を使って囁いた、その時だった。
「――うっ」
突然、晶斗が『エイル』の――わたしたちの手を振り払うと、両手で芹那の首を締め始めた。
「一つの身体で三人が争うなんて、まともじゃない。君たちとの生活はこれまでだ」
このままでは三つの心を持った魔女に一生、つきまとわれると思ったのだろう、晶斗は怯えたような目をわたしたちに向けながら、首に掛けた指に少しづつ力を込めて行った。
――結局、いがみ合っているうちにわたしたちはすべてを失ってしまうのか。
芹那の口が酸素を求めて喘ぎ、わたしが赤く染まる視界の中で絶望を噛みしめた、その時だった。
「――ぎゃあっ!」
突然、晶斗の絶叫が聞こえたかと思うと、芹那の首を閉めていた力が消えた。涙でぼやけたわたしの――芹那の両目が捉えたのは、顔を歪めてのけぞっている晶斗とその太腿に付き立っているドライバーだった。
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