第2話  ~未来(Miki)と美咲(Misaki)~ 《百合編》


未来「どう?シルヴィアは上手く行ってる?」


美咲「はい、有難うございます。先輩のお陰で、大分調整できました。 音の感覚も掴めてきたし。 シルヴィアのバリエーションは、初めてだったので、合わせるのがちょっと難しくて」


未来「ピチカートは、音がはっきりと立っているから、ズレがあると観客にも分かりやすいのよね。ステップの難度は勿論だけど、音が見えてこないと審査では加点され難い(にくい)のかもね」

美咲「ふふふ」 

(未来、美咲が小さく笑うのをみて)

未来「美咲ったら、何笑ってるの?」

美咲「だって、先輩いつの間にかバレエに詳しくなってるから」

未来「そりゃそうよ、この数週間ずっとあなたのヴァリエーションに音を合わせて来たんだもの。嫌でも振りや、パ? でしたっけ?ステップの名前も覚えるわ」

美咲「そうですよね。本当に、ありがとうございます。先輩のヴァイオリンの生演奏とのコラボ企画が無かったら、発表会のソロのパートも踊らせてもらえたかどうか・・・私、1位を取れなかったから」(少し、悔しそうに下を向く)


未来「本当に、美咲はおバカさんよね。コンクールの前に、私に一言いってくれれば良かったのよ。そうすれば、メロディーの成り立ちや、正確な音の取り方のノウハウを伝授できたのに」(わざと、意地悪な言い方をして、美咲を見る)


美咲「そう…ですね」(涙目になっているのを、見られまいとして更に、下を向く)


  (未来、美咲の顎にそっと手を伸ばし、軽く持ち上げて)

未来「美咲は、とても綺麗だよ。ほっそりとした長い手足も、柔らかい髪も。小さな整ったこの顔も。一つ一つが全て繊細で、神様が特別に愛情を注いで作りが上げたみたいに、綺麗。ヴァイオリンを弾きながら、瞬き出来ないほど見惚みとれていたのを、知らないでしょ?」

美咲「うそ・・・私はちっとも綺麗じゃありません。舞台に立ったって、他の子に比べたら華やかさに欠けるし、甲だってもっと高くなきゃいけないのに、ちっとも高くならない!グランバットマンを大きく、しっかり見せたいのに、全然思うように上がってくれない。指だって小さくて・・・」


(未来が人差し指で、美咲の唇にそっと触れる)


未来「しっ……もういいよ。美咲が何と言おうと、私には美咲の全てが美しく見えているんだから。 私の宝物を傷つけるような言い方、しないで。

音に合わせて、美咲の腕が透明の羽根を広げたり、長く伸びやかな足が鞭を打つように、しなやかに空間を切り取る瞬間、私のヴァイオリンの弦も命が吹き込まれた様に、歌い出すのよ。そんな身体中が震えるような快感、今まで一度もなかったよ」

美咲「・・・・先輩。そんなこと言われたら、泣いてしまう」


未来「ね、美咲。私達の名前、ローマ字で書くとMisakiとMikiでsaだけが違うのよ。二つの小文字は、まるでこうして向かい合い、見つめ合ってるみたいに、見えない?」

美咲「うそ…みたい。先輩も、同じこと考えていたんだ。 嬉しい」


未来「おいで」(そっと、美咲を抱き寄せる)「なんて細いうなじなんだろう」

美咲「…先輩、見ないで….恥ずかしい」(思わず、自分のうなじに手を当てて、隠そうとするが、未来その手を取り、遮る)

未来「小さな、ほくろがここに、あるよ」(そう言いながら唇を寄せ、軽くキスをする。チュ、キス音)

美咲「せ、先輩。 どうしよう.....体が、熱い」(未来の肩に顔を押し付け、声がくぐもる)







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声劇台詞 「くちづけ」  欠け月 @tajio10adonis

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