2話
ブラックホール。一般相対性理論が予言する驚異的な天体。太陽よりも質量が大きい恒星が重力崩壊を起こすことで誕生するとされている。自身の持つ重力によって恒星は無限に収縮をし、最終的には無限に重力が強まる特異点が生まれる。これがブラックホールだ。
アインシュタインが生きていた時代では考えられない程、科学が進んだ現代の無人宇宙船などを駆使してもその実態が明かされることはなかった。出来る事と言えば、望遠鏡で視覚にとらえるのみ。重力場の研究によって、分かったことも多少はあるが、ブラックホールの内部がどうなっているのか、未知の部分が圧倒的に多かった。
そのブラックホールが目の前にある。なぜここまでブラックホールに近い場所にワープゲートが繋がってしまったのか分からなかった。強い磁場の影響で、計器などが正常に作動していない。
「まだ! 離れていても地球付近の座標が分かればワープできるかもしれない!」
だが、俺は座標を調べようとして気付く。明かりが消え、全ての機能が停止していた。気が付けばブザー音も聞こえない。出来る事と言えば、操縦桿を使って機体を傾ける事くらいだった。
「うっ、くっ!」
涙が出てくる。
まだやりたいことが沢山あった。家族にも迷惑をかける。何より他の班員がどうなったかが心配だ。
「こんな......所で! 死にたくない!」
操縦桿を左右に動かし、迫る岩石を避ける。既に機体の速度は音速を超えていた。もう生きるすべはないのか......、そう思うと、自分の人生に意味があったのか分からなくなった。人類に貢献できず、ただ死ぬだけ。そこに大義名分もない。
「くそ! くそ! くそぉぉぉぉぉぉ‼‼‼」
ふと、訓練期時代の顧問の言葉を思い出した。
『ブラックホールには僕たちがまだ開発できていない、ワームホールがあるかもしれない。ブラックホールと対象の存在を君たちも名前は知っているはずだ。そう、ホワイトホール。ブラックホールとは違って、今現在、それを見たことのある人物は存在しない。だから存在するかどうかも分からない天体だ。でも僕はあると信じている。ブラックホールが全てを吸い込む天体なら、全てを吐き出す天体だってあっていいと思わないか? もし仮に、あるとするならば、ブラックホールとホワイトホールはワームホールで繋がっている可能性が高い。そこを通れば、過去に戻るタイムトラベルが出来るかもしれない。もしくは別次元の世界が広がっているかもしれない......」
まだ、生き残る可能性はある事を知って、少し落ち着いた。ただ、大量の放射線を浴びても平気なはずの宇宙服を着ていても、さっきから頭が痛い。体もずきずきと痛む。おそらく、今受けている放射線が、宇宙服の開発で予期されていた放射線量をはるかに超えているのだろう。
このままいけば、俺はワームホールを潜り抜ける頃には意識がないか、死んでいるか......
一か八かの賭けだった。
周囲の岩石に機体が当たらないように操縦する。
全てを吐き出す天体ということは、もう二度とこの場所に戻れないということだ。そして、もし仮に、ホワイトホールが存在しなければ......考えうる事態の中でも最悪な結末が待ち受けているだろう。
でも、生きるためにはもうこれしかない。
真っ黒な空間に近づいていく。機体がガクガクと揺れる。
ブラックホール内部に入った瞬間、身体が裂けるような痛みを感じた。
「があああぁぁぁぁぁぁ‼‼‼」
断末魔とでもいえるような叫びをあげて、俺は床に倒れた。宇宙服の冷たさが身に染みる。人類史上初めてのブラックホール内部に入ったが、教科書に俺の名前が載るわけでもない。ブラックホール内部をよく見ることもままならなかった。
次第に意識が薄れていった。
このまま眠ってしまいたい。そう思ったが、最後に、最後にしなくてはいけないことがある。体を無理やり動かし、引きずりながら、俺はあるボタンを押し、それと同時に意識を失った。
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ーーー
ー
ピッ!
『SARA起動します......』
『搭乗員の容態、深刻。治療にあたり、スリープモードを使用。また、未確認ウイルスを多数確認。消毒します』
『失敗。ウイルスの特性から、既存ウイルスの変異種である可能性、大。引き続き研究します。』
『故障部位多数。修理します......』
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ー
『完了。』
『本部との連絡不可。第2フェーズに移ります。目標、地球型惑星。現在地の座標を確認......不可。未確認座標であると推測、現在の場所を原点に設定。座標制作を開始します。』
『ワープを、開始します......』
異星探索記 オグリ @ponpokp
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