第1章
1話
『M-11~20号機、発射準備完了。2班は準備をお願いします』
とうとうこの日が来た。太陽系外に出て異星を見て回る日が。最新型宇宙ステーションからようやく出られるんだと思うと、にやけ顔が止まらない。
ヘルメットを片手に、自分が今から乗るM-11号機を見上げる。各機体は1人乗り用となっており、大きいわけではないが1人で使うには十分すぎる大きさだ。これからこの機体に搭乗すると思うと胸が躍る。
宇宙飛行士達は、3年間、それぞれの班で決められた惑星系に人類が居住できそうな星を見つける任務を背負っている。太陽が更新世爆発をする前に、地球上にいる生物ほぼすべてを移住させる計画、所謂『ノアの箱舟』計画を遂行するためだ。まだ爆発まで時間は限りなくあるが、地球が先に限界を迎えてしまう可能性がある。それに備えるための計画だった。
「おい、行くぞ和人。後ろで3班が待ってる」
同期の
「お前は2班の班長なんだから」
「あぁ、行こう!」
足を機体の方へ進める。
『2班、全員の搭乗を確認。発射まで10分前』
今までの訓練通りやれば大丈夫、そんな事は分かっていても操縦桿を握る手のひらは汗まみれだ。深呼吸をして自分を落ち着かせようとしても、緊張は止まらない。
分かった、これは緊張じゃない。新しい世界を見ることが出来る事への期待と興奮だ。小さなころから憧れてきた宇宙。調べつくされた太陽系とは違った未知の惑星系。光学望遠鏡で見た点のような星を間近で見ることが出来る。
「ワクワクしてきたな!」
笑いが止まらなかった。
「Hey ! Leader ! Your voice's leaking.(おい! 班長! 声漏れてるぜ)」
ヘッドフォンから同じ班のアンドレの声が聞こえてきた。急いでマイクをオフにする。危ない危ない。ヘッドフォンの向こう側ではさっきの言葉を笑いあう班員の笑い声が聞こえてくる。そんなに笑われるようなこと言った?
『発射まで5分前、エンジン点火します』
機体が揺れる。
『4分前......3分前......2分前......1分前、秒読みを開始します。59、58、57...... 』
マイクをオンにする。
「いいかお前ら! はしゃぐんじゃねぇぞ!」
「お前がな!」
ヘッドフォンから再び班員の笑い声が聞こえてきた。圭介はあとでしばこう、30分間腕立て伏せでもやらせるか。
『5、4、3、2、1! 発射!』
腹に象が突進してきたような圧を受ける。訓練されていない一般人が体験すれば気絶するかのような力だ。呼吸を乱さず、止めないように必死に息を吸う。
だが、そんな大変な時間も一瞬で終わった。見慣れた黒い空間。右手には大きな地球。満天の星空。この景色ともしばらくお別れだ。
「こちら
『こちら管制室。了解。座標1522-103-98723の重力場確認。ワープゲート、生成を確認。どうぞ』
「了解。織田圭介からワープを開始する」
『了解』
「というわけだ。圭介、トップバッターだぞ」
「お前は最後か」
「あぁ、あとお前、ドッキングしたとき覚えてろよ。腹筋30分間やらせるからな」
「はぁ!? なんでだよ!」
「ほら、さっさと行けよ」
圭介のチッいう舌打ちが聞こえたと同時にあいつの乗るM-12が視界から消えた。圭介の後に続くように周りにいた班員の機体が姿を消していく。最後に残ったのは自分の機体だけだ。操縦桿の横にある赤いボタンを押せばワープが開始する。
「よし!」という掛け声と同時に俺はスイッチを押した。
その瞬間、周りが青いペンキで塗られたような不思議な空間に出た。
『聞こえるか、和人』
ヘッドフォンから聞きなれた声がしてきた。先輩宇宙飛行士の
「聞こえますけど、どうしたんですか?」
『俺の班は明日出航だからな。暇だからお前のパートナーすることにした』
「まったくあなたという人は......」
『まぁいいじゃねぇか。おっと、そろそろワープ終わるぞ。揺れに注意しろ』
操縦桿を握り、背を背もたれにぴったりとくっつけて揺れに備える。
おかしい。ワープが終わる気配がない。
「先輩、ワープ終わりませんけど!」
『そ......事は......』
何か言っているようだが全く聞こえない。昔のラジオでチャンネルを変える時の雑音のようなものしか聞こえてこない。
「先輩?」
ヘッドフォンからは何の音も遂にしなくなった。それと同時に赤いランプが灯る。
引力探知機だった。
「な、なんで!」
ブザー音に動揺していると機体が揺れ、ワープが終わった。しかし、引力探知機は作動したままだ。
「こちら和田和人、管制室、応答願う」
管制室に無線を入れたが返事はない。周りには既に到着してるはずの他の班員の機体も見当たらない。
おかしい。嫌な予感がする。
座標を調べるためにシートベルトを外し、立ち上がった時だった。機体がガクンと揺れる。何かしらの惑星の引力を受けているのだろう。まずはこの引力から抜け出さなくてはいけない。
再び操縦席に座り、機体を安定な状態にしようとした時、あることに気が付いた。自分の機体、M-11の横をいくつもの、小惑星とでも言えるほどの大きさの岩石が後方に流れていく。1つや2つなら偶然と言えるが、それが数えられない程の量となると話は別だ。相当強い引力を持つ惑星なのだろう。
岩石の流れから見て後ろにあるはず。それならこのまま加速すればいいだけだ。
操縦桿を前に倒し、加速させる。
「?」
速度計の針が左に振れ切ったまま、つまりまだ後方に加速し続けていることになる。
「最大出力を出すしかないか」
これでもかという程の力で操縦桿を前に倒し切った。
「??????」
全く速度が上がらない。それどころか引力に負け、後方に加速しているようにすら思える。
「まさか......まさかまさかまさか!」
もし俺の予想が当たっていたとするならば最悪の事態だ。助かる見込みはおそらく、ない。
機体を後方に向ける。引力探知機のブザーと共に放射線探知機のブザーまで鳴り出した。
中心の暗黒の空間。それを取り巻く渦巻き模様の気体。光すらも抜け出すことのできない永遠に落下する天体、重力が無限に増大する天体......。
「ブラックホールか......!」
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