第29話 ダカール沖海戦 エピローグ
やむなく松田は各砲塔ごとに射撃を命じた。
着弾観測データが得られず、命中率が下がってしまうが何もしないよりマシだった。
だが、砲弾はやはり命中しない。
ダカールに逃げ込もうとするリシュリューが離れることに焦りを覚えた時、後方で爆発音が響いた。
「自由フランス船団の一隻が被雷!」
「何だと!」
潜水艦の放った四本の内、二発が大和によって処理され、一本が命中。
残った一本が連合国に知られることなく、すり抜けてしまい船団に命中してしまった。
戦闘の混乱で警戒が緩んでしまった連合国側、護衛部隊のミスだが、観戦しようと無闇に戦場へ接近したドゴールが原因だった。
「ドゴールは無事か」
いけ好かない人物だが、連合国側の国家元首、亡命政権だが同盟国の総司令官だ。
死んでしまったら影響は計り知れない。
「自由フランスの機関には被害なし。輸送船一隻が被雷、浸水しているとのことです」
報告を聞いて大和の艦橋に安堵の吐息が広がった。
しかし、輸送船が沈没したのは問題だ。
自由フランス軍はヴィシーフランスから脱走兵扱いされており、兵員が少ない。
その貴重な兵員が失われてはダカールへの上陸作戦どころか、今後自由フランスが存在できるか怪しい。
更に状況悪化を知らせるように大和の周囲に水柱が立ち始めた。
「ダカールからの砲撃です」
陸上砲台の射程に入ってしまったようだった。
「反転、陸上砲台の射程から退避せよ」
陸上砲台と戦っても勝ち目はない。
松田は撤退を命じ、宇垣も黙って承諾した。
これがきっかけとなり、ダカール沖海戦は終結した。
船団に被害が出たことからドゴールは損害の拡大を防ぐ、フランス人同士が傷つくのを避けるためと言って作戦の中止を命じ、英国に引き返すように命じた。
本当は輸送船の沈没に怖じ気づいた事に誰もが気が付いていた。
だが、自由フランスの指導者を傷つけるような言動を表立って言うことはなった。
結局の所、作戦は失敗に終わり、フランスの連合国に対する感情も悪化してしまった。
被雷した大和は、骨折り損のくたびれもうけ、となったが。
しかし、身を挺して船団を庇ったこと、特に被雷した時の派手な水柱を従軍記者が撮影していたこともあり、ダカールで勇敢に戦った艦だと世界に報道された。
日本の面目が守られた事だけが唯一松田に大和を損傷させてしまったことの慰めとなった。
架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ―― 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou
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