第28話 大和の損害

 艦橋でこれだけの衝撃と被害を受けたことから、大和に甚大な損害が発生したと松田は覚悟した。

 気に食わないが同盟国のために大和を傷つけるのは心苦しい。

 しかし、報告は意外なものだった。


「機関室異常なし」


「ボイラー損傷なし、最大戦速発揮可能!」


「第一砲塔異常なし」


「副長より報告、防御指揮所に被害報告なし」


「右舷中央防水区画より報告。浸水無し。被雷箇所知りたし」


 次々と報告が上がってくるがいずれも軽微、無いに等しい。


「本当に魚雷は命中したんだ! 艦橋に負傷者が出ている! 本当だ! 救護員と代員を今すぐよこしてくれ!」


 艦内電話担当の下士官の声が響く。

 魚雷を受けたことを疑われて必死に状況を伝えている。


「どういうことだ」


 そこまで言って松田は思い至った。

 大和の巨体が、魚雷の衝撃を吸収してしまったのだ。

 そのため船体にいた乗員は被雷したことにも気が付かなかった。

 艦橋に被害が出たのは、船体から離れた高い塔のため僅かな揺れが大きくなり振り回されてしまったのだ。


「なんて艦だ。魚雷一本で無傷だと」


 駆逐艦なら一本で撃沈。

 戦艦でも浸水するはずだ。

 大きく揺れた艦橋はともかく、大きな被害なし。

 勿論、流石に、被害は無しとはいかなかった。

 この時は分からなかったが、後日、原因不明の浸水が見つかり調査したところ、被雷した箇所からと判明した。

 だが、その程度の被害で抑えたことが大和の設計の優秀さを証明していた。

 しかし、重大な損傷は既に発生していた。


「こちら主砲指揮所! 射撃指揮装置故障! 射撃指揮不能!」


 艦橋より高い位置にある主砲指揮所が一番揺れが大きく被害が大きかった。

 そして精密機械である射撃指揮装置、敵艦の位置を割り出し主砲の仰角方位を指示する精密機械が壊れて仕舞った。

 これでは、各砲塔に射撃データを元に指示が出来ない。


「各砲塔、独立撃ち方始め!」


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