第27話 大和被雷

「え?」


 宇垣の命令に松田をはじめ、艦橋の乗員を戸惑わせた。


「長官、魚雷が命中します。回避しなければ」


 いつもは知的で沈着冷静な松田が焦って進言する。

 命中までの時間は最早無い。


「分かっている」


 しかし宇垣も承知で命じていた。


「では何故」


「避けた魚雷が後方の船団に命中してしまう」


 宇垣の指摘に松田達も納得した。

 後方には自由フランスの船団が続行している。

 観戦すると言ってドゴールが反転せずに接近しているため魚雷が届く可能性がある。

 命中率は低いが命中したら、輸送船など一発でお終いだ。

 タダでさえ少ない自由フランス軍の戦力が輸送船一隻分消滅してしまう。

 更に自由フランスと連合国に対する評価が劇的に低下する。

 大和が回避したことで、同盟国を見捨てたと言われかねない。

 それは避けなければならない。


「了解! 大和が盾になります!」


 瞬時に理解した松田の行動は早かった。

 すぐにうがきの命令に則した行動を起こす。


「針路そのまま! 右舷機銃群海面掃射! 魚雷を撃破しろ!」


 魚雷に立ち塞がると共に俯角に採れる対空機銃を使い魚雷を始末しようとする。

 盾になるが当たる数は減らす。

 松田の狙いは当たり、二本の魚雷を命中前に始末することが出来た。


「一本! 接近します!」


 だが、向かってくる最後の一本は深い深度を走っており、機銃弾が届かない。


「命中します!」


「総員対衝撃防御! 隔壁閉鎖確認!」


 命中は免れないと悟った松田が命じ、手すりを強く握る。

 乗員達も、衝撃に備えた。

 直後、激しい衝撃が艦橋を襲った。


「うおわあああああっ」


 衝撃で左舷側に大きく突き上げるような衝撃が発生。

 何とか耐えたが、魚雷の爆発による水柱のシブキが滝のように流れ込み刺しを取られて数人の水兵が吹き飛ばされる。


「大丈夫か!」


 松田は、そのうちの一人を片腕で抱き留め立ち上がらせた。


「は、はい……」


 艦長に恐縮しながら水兵はお礼を言いバツが悪そうに配置に戻った。


「負傷者を治療所へ運べ」


 松田の指示で負傷者が運ばれていく。


「全艦! 損害を報告せよ!」


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