店頭に立っていた加代さんが奥に歩いてくる。

「さっきコロッケを買ったお客さんなんですけど」

 加代さんは早くしゃべってしまいたくてもどかしい感じ。それでもなかなか声が出てこない。

「どうしたの」

「泣いてるんですよ。コロッケを食べながら」

 様子を見に店の前に行ってみると、店から少し離れたところに男が立っている。毛糸の帽子を深くかぶり、マフラーをしているので顔はよく見えない。手には確かにペーパーに包まれたかじりかけのコロッケを握っている。

 本当に泣いているのかな。うつむき気味の顔をじっと見てみた。

「お兄ちゃんどうしたの、こんなところで」

 突然マチが飛び出してきて、男の手を取って店の奥まで引っ張っていく。

 そうか、やっぱり春樹さんだったんだ。確信が持てなかったけれど、やっぱり兄妹、マチにはわかるんだ。

 そうあの時なんだ。ミキが行方をくらましたとき。春樹さんも会社を辞めてどこかへ行ってしまった。おやじさんには話をしたらしい。全部ではないようだけど。しばらくこっちでミキと暮らしていたらしい。

 そういえばマチと二人で下北あたりを捜し歩いたことがあった。

「もうどこにいるかわからねえ」

 おやじさんが怒ってそう言っていたことを思い出した。マチと結婚しておやじさんとおばさんの面倒を見てきた。その二人も申し合わせたように逝ってしまった。

「連絡しようとしたんだよ」

 マチが少し涙目で春樹さんにそう言っている。というより責めているのか。覚悟はしていたようだけれど、春樹さんも涙が止まらなかった。

「二人ともとは思わなかった」

 春樹さんはマチのいないところでポツリとそう言った。

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