ブルースを歌って
阿紋
1
フィービー・スノウの「サンフランシスコベイ・ブルース」が流れていた。
二階にある下宿の窓から涼しい風入ってくる。大家のおじさんは少しぐらい大きくレコードをかけていても怒らない。
「ミキちゃん来てたのかい」大家の息子さんの春樹さんが部屋をのぞいて声をかけてくる。
「おじゃましています」ミキが答える。
「ゆっくりしていきなよ」
春樹さんはうちわで胸元を扇ぎながら奥の部屋に入っていく。春樹さんはいま就職をして会社の寮にいるけれど、頻繁に実家のこの家に戻ってくる。
春樹さんも音楽好きでバンドを組んでいた。
「ハルさんがあたしにヴォーカルやらないかって」
「歌えるの」
「歌は好きだよ」
「バンドで歌える人がいないんだって」
「どんなバンドやってるのかな」
「よく知らないけど、フォークじゃなくてロックだって」
「激しいやつかい」
「そんなでもないんじゃない。これだってロックでしょ」
「ロックなら英語で歌うんじゃない」
「大丈夫」
「英語はやだなあ」そう言ってミキはレコードの歌詞カードを手に取って見ている。
「楽器とかはやらないの」
「ギターは少し弾けるけど」
「それじゃ今度何か弾いてよ。あたが歌うから」
そういってもなあ。ギターがないんだ、今この部屋には。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます