第2話 まさか、あたしったら……




 それからしばらく経って、ミヤコの通う高校も、世間並みに夏休みに入った。

 この期間には卒業したての先輩が古巣の部室を訪ねるのが慣例になっている。


 歴史研究部にも何人かの先輩たちがやって来たが、ひそかにミヤコが待つ元部長はなかなか現われず、やっぱり都会の絵の具に染まっちゃったのかな、と諦めかけた。



      😎



 お盆も間近になってようやくすがたを見せた元部長は、相変わらずチャラかった。

 あれ、こんなだったっけ?! ミヤコが意外に思うほど、その細い腰が軽いのだ。


 長い脚をあえて強調する細身のパンツ、こちらの目まで染まりそうなショッキングピンクのシャツにシルバーのロングベストを重ね着している、この暑いのに。(笑)


 話すことも軽く、この人の口ってこんなに薄かったっけ? と思うようなくちびるをヌメヌメ(こう感じた時点でアウトだ(笑))動かし、やたらにしゃべりまくる。


 そして、さも意味ありげな斜めの視線を、ときどきミヤコのほうに送ってよこす。

 おまえ、おれに気があったんだろう? 知ってんだぜ、と言わんばかりに……。



 ――げげげっ、やめてくださいよ、先輩!!

   誤解されるじゃありませんか。(# ゚Д゚)

 


 ミヤコは思わず叫び出しそうになり、慌てて口をおさえなければならなかった。

 なんなの、この変わりようは……自分で自分の気持ちが、ちっとも分からない。


 あれほど好きでたまらず、この人のことを想うだけで、ふるえるほど幸せだった。

 つい春先までのあのあたしは、どこへ行ったのよ? 自分で自分に訊いてみたい。


 もっとも、もっとその理由を訊いてみたかったのは、元部長だったかも知れない。

 下級生にモテてモテて仕方ないおれ……そういう状況だったことはたしかだった。


 けれど、距離を置いてみたら、急に熱が冷めたという感じで、みんな白けている。

 よほど歓迎されるだろうと、わざと遅れて登場したのに、なんなんだよう。(笑)



      🌌



 その夕方、農道を走っているミヤコにうしろから一台の自転車が追いついて来た。

 保育園から一緒で、ノウキンの陸上一辺倒かと思ったらちがった、あのフウタだ。


 黙って横に並んだフウタは、なにか言いたそうにしていながら、なにも言わない。

 で、ミヤコから俳句の話を持ち出してやる、一種のリップサービスとして。(笑)


 驚いたことに、フウタは歳時記なんか買っちゃって本格的に勉強しているらしい。

 実力をつけて俳句甲子園にも出場したいと言うから、ミヤコは夜空にのけぞった。


 しきりに照れまくっているフウタが、正直、かわいい。

 チャラいだけで中身空っぽの元部長なんて、いらない。



 ――こいつのこと、あたし、好きになりっぽいかも……。

   ひょんなことからっていうやつ? 人生、奇々怪々。



 おかしな日本語を並べながら、ミヤコは幼馴染ってやっぱりいいなと思っている。

 給食を食べられなかったりオモラシして泣いたこともみんな知っているんだもの。


 いまさらカッコいいとこを見せようとする努力も不要だから、お得だし。(笑)

 さて、いよいよ始まったあたしの真実の初恋、これからどう展開させようか……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

重衡の身より出たる蛍かな 🌠 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ