ep14. 秘密のルル

「——で、どうしてこうなった?」


「これ、すごく美味しいです!魔族たちってこんな料理を食べてるんですね!」


「まずまずだわー、あっ、まずいじゃなくておいしいってことだからー」


「う〜ん、なんか見た目がどうにも受け付けないわ。飾り付けは凝ってるけど、このソースが全部血みたいに見えるわよ……?うーん、味は……イケる!イケるわ、これ。今度料理の飾り付けはあたしが指導するわ」


「……おいしい」


 ルル、リリ、ミリア、ヴィオと食事を囲みながら、ちらりとシェフの方を見る。


 そこには、先程捕縛してきたエルダが、エプロン姿で立っていた。


「お口にあったなら、よかったゼェェ……!」


 エルダのことを話した時は、ルルもリリも怖がったし、とても受け入れられないと思っていた。

 しかし、魔力は封じられ、ルルたちにも散々に泣いて反省したエルダを、ルルたちはひとまず受け入れたのだった。

 妖精族が多く住むこのエリアでは、魔族は危害を加えてくる存在故、受け入れられない者が多い。

 しかし、エルダは外で待機している間に、妖精族の者に随分と酷く当たられたそうだった。それでも反撃もせず(反撃する力もそもそもあまりないとはいえ)耐えていたエルダに、ルルたちも手を差し伸べようという心境になったのだろう。


「して、意外だな。料理が得意なのか?」


「上位魔族の食事を作っていたんだよォォ」


 エルダはしばらくここの冒険者ギルドで働くことになったらしい。

 まあ、これだけではまだ足りない。この後は知りうる限りの魔族側の情報を落としてもらわなければ。


 魔族の森からの帰宅が遅くなってしまったせいで、食事を終えたのはもう昼も過ぎ、夕方に差し掛かった頃だった。

 俺はふと、ルルの方に目をやった。

 楽しい食卓を囲み満足げなルルたちの姿。

 ルルの死亡フラグの更新までは、あと一日とちょっと。

 本当に運命は変えられたのか?俺はふいに不安になる。


 一旦、休憩を挟んでから情報を聞き出そうという話になり、俺は一人で部屋に戻った。ベッドに座ると、ふかふかの布団がなんとも心地よかった。

 なんだか、大変だったなぁ。ここにきてからずっとドタバタしてたし、思えば寝てもない。


 ——コンコン。部屋をノックする音。


「どうぞ」


「あの、ユウリさん……」


そこには寂しげな顔をしたルルが立っていた。


「ルル、どうし……」


ルルはいきなり俺に抱きついてきた。


「ユウリさんっ……」


「ちょ、え、どうしたんだ?ルル」


 ルルは頬を染めながら、俺の目をまじまじと見つめ、首に手を回してきた。


「ユウリさん、よかった。本物です……本当は幽霊になってしまっていたら、どうしようかと思って。……触れた。本物ですね」


ぎゅうと力を加えてくるルルに、少し心拍数が上がる。


「ユウリさん、あの。お願いがあるんです」


「ああ、なんだ……?」


「今日は一緒にずっといたいんです。……だめですか?」


「えっ……い、いや、それは……まずいだろ」


「だって、昨日は朝起きたらユウリさんがいなかったんです。本当に寂しかったんですよ。だから、今日はずっとこうやって……だめですか?ね?お願いです、いいですよね?」


 ルルが顔を近づけてくる。俺は妙に積極的なルルに、正直心臓が高鳴った。

 ルルの抱きしめる手が強くなる度に、ルルの柔らかさが伝わってくる。

 そういえば、衣装も結構、露出の多い衣装だな……

 

「あっ、いや……その、誰か来たらまずいって」


「ふふ、鍵、閉めちゃいましたから」


「えっ?そ、そうか……?」


「ユウリさんのせいですよ。私をひとりにしないって、言ってくれたのに。だから……今日はユウリさんといます」


「じゃ、じゃあ、俺が床で寝るから。ルルが寝るまで話に付き合うからさ」


「そんなこと言って、だめです。今日はこうしてぎゅっしてないと、どこかに行っちゃうかもしれないから」


「まだ俺は休むわけにいかないからさ……エルダから話を聞かないと」


「明日にしましょう?ね?」


「うわっ!」


 ルルはユウリと勢いよくベッドに倒れ込んだ。


「ちょっ……ルル」


「それに……ルルの秘密、教えちゃいますよ」


 今日のルルは別人に見えるほどで。いつもは可愛らしいルルが、今日は妙にセクシーで、羽から香る微かな花の芳香が、やけに煽情的に感じた。

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