あっ、元うちの子なんだぞ
従魔ガチャガチャを回した結果出てきた十個のカプセル。
その全ての中身を確認し終える。
そして召喚石に描かれていたイラストから、どの系統の魔物が出てくるのかを推測してみると――
「キャット系、ドッグ系、ウルフ系、ラビット系、スライム系、バード系、インセクト系、そして――ドラゴン系……あと種別の分からない人型の魔物らしきものが二つ、でいいかしら」
「そうだね、多分それでいいと思う。それにしてももっと分かり易い絵にならなかったのかな……?」
「それはこれらの提供者っぽい神様たちに言ってよね」
召喚石に描かれていた絵は、そのどれもが抽象的で今の分類だって三人で頭を悩ませながら分類した結果なのだ。
何となく特徴が押さえられているから判断できたものの、間違っていないとも限らない。
ちなみに一つとして同じ絵が描かれた召喚石は無かった。それだけ多くの種類の召喚石が入っているのか、それとも単純に同じものが出ることは無いのか。
まだ判断はつかないけれど、何回かガチャガチャを回せば分かってくるだろう。
今はそれよりも実際に召喚石を使ってどうなるのかを確認したい。
「召喚石も全部確認したし、そろそろ召喚に移ってもいい?」
「僕は大丈夫だよ。セレナはどう? まず試して貰うのはセレナからになるから、もし必要なものがあれば準備して欲しいけど」
「そうね……じゃあ念の為に護身用の杖を持ってくるわ。ちょっと待ってて」
屋敷に戻り魔法使いとしての自分の杖を取りに行ったお母様だったが、五分とせずに戻ってくる。
手には地面から胸元ぐらいの長さがある杖が握られていた。
特に凝った意匠が施されているでもなく、杖の先端に幾つか石が取り付けられている。少し無骨な印象を受ける杖だった。
そういえば、お母様が魔法を使っている姿は見たことあるけれど……あの杖を持っているところは初めて見るかもしれない。
そんなあたしの視線に気付いたのかお母様が悪戯っぽく笑って教えてくれる。
「ふふっ、クレハに見せたのは初めてだったかしらね? 普段使いするぐらいなら杖が無くても問題ないんだけど、ある程度以上の魔法を使おうと思ったら杖があった方が便利なのよ。クレハには――ちょっと魔法の使い方が特殊だから必要ないかしら?」
「う~ん、確かに普通とは違う使い方してる自覚はあるからどうかしら」
それにあたしが使う魔法は魔法じゃない。魔法陣と術式を通して魔法を再現しているだけだから厳密には魔法とは呼べないのよ。
「でもあったら補助程度にはなるかもしれないし、そのうち欲しいかも」
「なら今度時間が出来たら一緒に作りに行きましょう。領内に良いお店があるの。この杖もそこで作ってもらったものなのよ」
ほほう、お母様が気に入る程の職人さんがいるのね……是非とも紹介して欲しいわ。
「変なことするつもりなら連れていかないわよ……?」
「失礼な! そ、そんなこと考えてないわよ!?」
そうよ、別に変なことをするつもりは無いわ。
ちょっと魔法使いの杖について聞きたいことがあったり、付き合って欲しいじっけ……もとい研究があるだけよ。
「それよりも準備が出来たのなら説明してくわよ! ほら、お母様はこの召喚石を持って!」
あたしはジト目で見てくるお母様の視線から逃れるように話を変える。
召喚石を受け取ったお母様は、嬉しそうに頬ずりしそうな勢いで召喚石を眺めている。
「じゃあ召喚石を使った召喚と契約の手順について説明をするわよ。言っとくけど説明の途中で勝手に始めちゃ駄目よ? ちゃんと最後まで聞いてからにしてよね」
「分かってるわよ。ちゃんと聞くから説明をお願い」
そうしてあたしは、従魔ガチャガチャのお知らせに書かれていた手順について説明を始める。
まず召喚の手順だが、これは至って簡単だ。
手に持っている召喚石に自分の魔力を込めれば、勝手に発動して召喚石に対応した魔物を召喚してくれる。
これで第一段階ともいえる召喚は完了だ。自分の目の前に展開された結界の中に対象が召喚された状態になる。
ここで召喚対象の周囲に結界が張られるのには、こちら側を守る意図の他にもう一つ。召喚対象の保護も含まれている。
例えば水中での生活を主としている生物を召喚した場所が地上って、とんでもない嫌がらせになるでしょう? 下手したら急激な環境の変化で死んでしまう可能性だってある。
それを防ぐために、結界を張りその中を召喚対象にとって最適な空間としているとか……
ここら辺の技術もすごく――ものすっごく気になるけど、今は後回しにしておく。
次の段階は、召喚した存在との契約だ。
自分が召喚した魔物とは結界を通して意思疎通を図ることが出来る。それは言語が違うとか、そもそも言葉を喋らないなどの障害も関係無いらしい。
それらを無視して向こうの意志は伝わってくるし、こっちの意志も向こうに伝わる。
その対話を経て、契約したいと思えば契約に進むことになる。
契約自体もほとんど形式化されているようで、かなり簡単になっている。
必要なのはお互いの契約を結ぶための条件を決めること。例えば、呼び出しに応じて力を貸して貰う代わりにあたし達は対価の魔力を従魔に与えるとか。
そして、その契約を決められた文言にそって召喚石に捧げれば契約完了となる。
一方で、契約をしないとなった場合の送還手順も決められている。
その場合は召喚石を――思い切り地面に叩きつけるらしい。すると召喚石が砕けて召喚対象は送還され、結界も消えるらしい。
……なんでここで魔法的じゃなくて物理的な方法になるのか疑問だけど、そういうことらしい。
機能を詰め込むのが限界だったのか、それとも単に面倒臭くなっただけなのか……
「なるほどね。流れは分かったわ。それにしても不思議な召喚魔法ね。言葉を話せない存在とでも意思疎通を図る事が出来るなんて、現行の召喚魔法の理想とするところじゃないの」
「まあ、さすがは神様が関わるアイテムって感じよね。あたしも調べたいところだけど、さすがに召喚石を解析するのも心配なのよね……」
多分、『万能工具グローブ』を利用すれば安全に構造や術式を知ることが出来ると思うんだけれど……それでもやっぱり心配なものは心配なのよ。
特にこんなに精密な機構がこの小さな石に込められているとなれば猶更ね。
だから気にはなるけど、慎重に少しづつ調べていこうと思っている。
もちろん、解析しないなんて選択肢はないわよ?
「じゃあ、始めるわね。まずはこの召喚石に魔力を込めるのよね――」
お母様はあたしの説明が終わると、さっそくとばかりに召喚を始める。。
キャット系の絵が描かれた召喚石に魔力を込めると、いよいよ召喚石に込められた術が発動した。
始めに鼓動のように光を放つ召喚石に呼応するように、お母様の目の前に結界が展開される。
そしてついに、結界の中に……半ば正体不明だった魔物がその姿を現した。
「にゃん?」
「「か、可愛い……」」「でかい……」
現れた魔物の第一声にお母様とあたし、それからお父様で反応が分れる。
「い、いやいや!? 可愛いの前に大きすぎないかい!?」
「でも、可愛いでしょう?」
「そうよお父様。可愛いじゃない」
「あ、あれ~? 僕の反応の方がおかしいの……??」
結界の中で毛づくろいをし始めた存在の目を奪われていると、お父様がそんなことを宣った。
確かに四足歩行の状態でお母様の胸元ぐらいの高さがあるから大きくはあるんだろうけれど……それよりもその可愛い見た目に視線がいかないなんて、お父様もまだまだね。
「テンペストキャット、かしらね? 前に見かけた個体に身体の特徴が似ているわ」
「僕もそうだと思うよ。全身がグレーの毛皮で覆われているけど、額の部分に雷のような白い模様が入っている。それに何より尻尾に纏わりつく
テンペストキャット――あたしも図鑑でしか見たことがない。それも詳しい情報は載っておらず、今お父様が言ったような特徴ぐらいしか書かれていなかった。
基本的に温厚な魔物だが、怒ると嵐を呼ぶ。そして辺り一面に暴風雨と雷を降り注ぐまるで天災のような存在であると語られていた。
そしてその特徴が、雨雲を纏ったかのようなグレーの毛皮と額の模様。そして常に尻尾に纏わせている真っ黒な雷雲と言われている。
ちなみにこの魔物のランクは――Sランク。先日領地に出現したフレイムドラゴンよりも上位の魔物だ。
戦力で考えればフレイムドラゴンを赤子のようにあしらうことが出来るほどの力を持っている強力な魔物なのである。
でも、可愛い……
「それにしても、こんなに大きな個体は見たことないよ。前に見かけたのだってそこらの野良猫ぐらいのサイズしかなかったし」
「かなり長生きな個体みたいね。長い年月をかけて成長してここまで大きくなったみたい――えっ? そうよ。後ろにいるのが私の家族よ。あと二人娘がいるけど、今は遠くに行っていてここにはいないわ」
……どうやらもう対話が始まっているらしい。
それを認識したあたしとお父様は静かにその対話の行く末を見守る。
幸いなことに、召喚されたテンペストキャット(?)は暴れる気は無いようでお母様を見つめながら対話に応じている。
二人が対話すること暫く。
遂に話の終わりが見え始めた。
「それじゃあ私に力を貸してくれるかしら?……そう、ありがとう。そうと決まればさっさと契約を済ませましょう」
「お母様……?」
「ええ、契約してくれるそうよ。今、契約を済ませるからちょっと待っててちょうだい」
そうして改めてテンペストキャットに向き直るお母様。テンペストキャットの方もこれから行われることを理解しているようで、居住まいを正している。
「いくわよ――『私、セレナ・カートゥーンは魔力を対価に――と従魔契約を結ぶことに同意する』」
お母様が決められた文言を紡ぐ。
すると手に持っていた召喚石が光となって形が崩れる。そしてその光はお母様の手の甲に吸い込まれると文様として刻まれた。
同時にテンペストキャットを覆っていた結界が消え去り、こちらに一歩踏み出す。
結界が消えたことを確認したテンペストキャットは、ゆっくりとお母様に近づき顔を近づけると甘えるような声を出した。
「これからよろしくね」
「にゃおん」
「セ、セレナ? 契約は無事に終わったのかい……?」
「見ての通りよ。ねぇ、バルドとクレハにも挨拶してあげて」
「にゃん(ふむ、そうしようか。童はエルザ。三百年の時を生きたテンペストキャットであり、少し前まで獣の神に仕えていた老人よ。気軽にエルザと呼ぶがいい)」
「「――!!?」」
テンペストキャットが鳴くのと同時に、頭の中に突然女性の声が聞こえてきた。
これってまさか……テンペストキャットの声、なの?
結界は消失しているし、契約者以外のあたしにもその効果が適用されるはずないんだけど……どうしてお母様以外にも声が聞こえてるの!?
「驚くわよね? 『
お母様の言い方からするに、やっぱりあの声はテンペストキャットのものらしい。
それとテンペストキャットには『エルザ』という名前があるようだ。
「……うん、色々聞きたいこともあるんだけど――一先ずはよろしくお願いするよ、エルザ」
「あたしは娘のクレハよ。よろしくね、エルザ」
「なーお(うむ。よろしく頼む。それよりも随分と面白いことをしているようだな? 妾も見ていていいか?)」
「それは別にいいけど、お母様。消費魔力の方は大丈夫? 召喚の対価には魔力を捧げているんでしょう?」
「その点は心配いらないわよ。普通に召喚してるだけだったら、消費と回復の関係が回復の方が若干多いぐらいだから」
「ならいいわ。エルザ、好きに見ていってもいいけど、召喚中に邪魔はしないでね?」
「にゃおん(そんな真似はせんよ。折角得た召喚主とその家族から嫌われるようなことはしないと誓おう)」
さて、じゃあ次はいよいよあたしの召喚の番ね!!
どの召喚石を使おうか迷うところだけれど――
「……よしっ、これに決めたわ!!」
そうしてあたしの人生初、従魔召喚が始まる。
異世界ガチャガチャ~天才男爵令嬢はガチャガチャアイテムに今日も狂喜乱舞する~ 水戸ミト @shiryu777
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