第5話 猛毒マタンゴーの脅威!


 またも私の料理で屠ってしまった。

 もうね、私の方がびっくりしてるよ。なんで食べただけで死ぬの? 一生懸命作ったのに、あんまりだよ……


 みんなが勝利に喜びの声を上げている中、私だけが悲観に暮れていた。


「どうした、明日乃。悩み事か?」

「片桐君……」


 そんなところへ片桐君がいつも以上に暑苦しい顔で話しかけてくる。きっとこの人は私の気持ちなんかわかってくれないんだろうな。


「うん、実はね……」


 話し始めようとしたところで、騎士団の方から悲鳴が聞こえた。まったく。私には悩みを打ち明ける時間すら持たせてくれないの? 


「なんだ!?」

「わかんない、行ってみよう」

「おう!」


 私達が駆けつけたところで、騎士団のうちの数名の顔色が悪いことに気づく。どうやら連日の強行軍が響いたのもあって、拾い食いをしてしまったようだ。


 どういうことなの? 


 いつからこの軍はそこまで追い込まれていたのだろうか? 食材は私のキッチンにたくさんあると言うのに。足りないなら足りないと言ってくれればいくらでも貸すよ? 

 理由を聞けばすぐに判明した。


「明日乃様の食材に手をつけるなど、我が騎士団の歴史に泥を塗る愚行! 明日乃様の料理があるからこそ我らはここまでこれたのです。ここより先、まだ危険な場所は多いです。そこへ行くまでに我らのわがままでそれらを消費するなど……なので我らのことは気になさらず、あなた様はそのお料理の腕を是非魔王に喰らわせてやってください!」


 一息で、噛むこともなく、いい笑顔で言い切った騎士団員さん。その気持ちはありがたいんだけど、さっきから空腹の音で台無しだよ? 


 でも私のご飯は猛毒だし……せっかく作ってあげようって気になっても、食べてくれる人がいないんじゃ作る気も失せちゃうよ。

 もっと美味しいって言いながら味わってくれる人、いませんか~? 


 少しして具合の悪い原因が判明する。


「食中毒?」

「ええ。どうやらこのキノコの毒に当たったようだと検知の魔法で判明しました」

「何故ここまでなるまで気づかなかったんですか?」

「それが良く熱したから平気だと言うので……」


 ちらりと騎士団員さんが片桐君を見た。

 話を振られた片桐君はいい笑顔で私を見る。


 お前か──! 


 確かによく焼けば菌は殺せるけど、それはお肉とかだから! キノコは食べるだけでもアウトのやつが多いんだからね! 


 そこでハッと気付く。

 今の私は毒に耐性がある。つまりキノコを食べてもお腹を壊すことなく美味しくいただけるのでは? 


 つまり何が言いたいのかと言うと、食材を現地調達できるのならば、国から持ってきた食材は騎士団員さんに分け与えられると言う寸法である。

 賛否はあったが、まずは使えるかどうかだけ試してみようと言うことになった。


 騎士団の手を借りて食べられそうなキノコを選別してもらい、まな板の上に似せる。

 目の前には舞茸、ヒラタケ、松茸、ナメコにタマゴタケと色とりどりのキノコが置かれている。

 ねぇちょっと待って、今さらっと毒キノコ入ってなかった? 


 まぁいいや。普通に茎と傘を切り分けて塩を振って火鉢で炙り。裏、表と焼きを入れたら、醤油につけていただく。


「どうだ?」

「うん、美味しいよ。ご飯が欲しくなる味」

「使えそうか?」

「そうだねー。そのままで食べるよりは揚げ物や煮物で使いたいかも。他にも山菜とかあればとってきて欲しいな」

「了解、お前ら! 気合いれて探せよ! それいかんによっては今日の食事が豪華になる。以上だ!」


 騎士団長さんの号令で、ワッと声を上げる騎士団員さん。やはり食べ物が賭かってるとやる気が違ってくるね。みんな元気よく飛び出しちゃった。


「なぁ、明日乃」

「なぁに、片桐君」

「これってただ焼いただけだろ?」

「そうだね」

「じゃあ毒じゃないよな?」


 片桐君の目が訴えている。

 先ほどから鳴り響く空腹のサインが殊更主張するようになった。つまりはそれを食いたいのだろう。


「そうだね、料理であるとは言い難いかな?」

「なら……」

「でもね、このキノコに毒がないとは言ってないよね? 私は自分の料理以前に毒耐性を持ってるの。この意味がわかる?」

「むっ」


 片桐君が箸を突き出し、キノコを手にしたところで森に入った騎士団の悲鳴が聞こえた。

 お付きで行った佐之君の悲鳴も聞こえる。

 彼女……もとい彼が今更出遅れる相手が出るとは思いたくないけど、私達はその場へ駆けつけることになった。

 片桐君は時折寂しそうに後ろを振り返る。

 余程食べ損ねたキノコが気にかかるようだ。


 諦めなよ。あれを食べたければ毒耐性を得てからにしなって。そう諭しながら私はみんなのもとに向かった。


 ◇


「どうした!」


 私たちが駆けつけると、全員がその場に倒れ込んでいた。その全員が中毒症状を起こしているようにも見える。


「まさか全員が食べたの?」

「いいや。食べてはいない」

「佐之君、無事だったの?」

「無事ではない。が、僕だけ騎士団より丈夫だってだけだ。どうやら敵はこの森の至る所に潜んでいるようだ」

「敵?」

「心当たりはあるのか?」

「ああ、敵は……」


 佐之君が意味深に間を溜めている時、それは現れた。


『ギギギャッ!』


 例えるならばそれは丸々と太ったキノコ。

 それに手足が生えて敵意を剥き出しに襲いかかってくる。


「ふんぬ!」


 片桐君の一撃の元にその魔物は倒れ伏した。

 同時にたくさんの胞子をその場にばら撒いて。

 それを佐之君の作り出した風に巻き取られ、何処かへと飛んでいってしまった。


「今のは?」

「敵は、あのキノコじゃない。あのキノコの撒き散らす胞子だ。あれが空気感染して体調を悪くさせる原因になっている。みんな、あまり大きく呼吸をするなよ?」


 佐之君はフレアスカートのポケットからハンカチを取り出し、片桐君に手渡す。


「使え。これ越しに吸えば胞子の混入は防げるだろう」

「ありがとよ。あとで洗って返すわ」

「バカ。お前が使ったやつなどいらん。そこらへんに捨てておけ」


 何やらいい雰囲気の二人。見ていてニマニマしちゃうのは私だけじゃないはずだ。

 でも待って。ここは私にも気を使ってハンカチをくれるところじゃない? 

 そう問いただせば、


「君は毒に耐性がある。キノコを食べても平気だったように、この場でも一番ピンピンしている。だから必要ないと思った」


 酷い。確かにその通りなんだけど、私は非力なんだよ? この中じゃ一番か弱い女の子なのに、あんまりだよー。


 私がぐすぐす泣いているのを他所に、男二人は慰めもしてくれないでこの窮地を脱する手を考えていた。ほんと、気の利かない奴らだ。


「決めた。この森は燃やすことにする。百害あって一理なしだ」


 私を除き、全員一致で可決。こうして魔王の土地の1/4に渡る森は佐之君の魔法によって焼き払われた。炎であぶっても毒素は消えないかもだけど、それの発生源が消えれば問題ないとのことだ。見晴らしの良くなった森だった場所を踏みしめて一行は進む。


 その日、騎士団のご飯は私のキッチン経由でちょっとだけグレードアップしたようだ。よかったね、みんな。

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異世界おもてなしご飯 双葉鳴🐟 @mei-futaba

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