第4話 魔王軍四天王・氷のガルガンチュラ


 森を抜けた後。

 私達勇者一行の前には魔王城へと真っ直ぐに続く道が広がっていた。遮蔽物の一切ない開けた空間に青白い燭台が魂の如く揺れ、私達を招待している様に揺れていた。


「この先に魔王がいるって訳か」

「油断するなよ、片桐。如何にこちらに強力な切り札があるとはいえ、先手を打たれたら終わりだ」


 佐之君が凛とした表情で杖を掲げ、先端から轟音を生み出しながら遅い車ものの群れを駆逐しながら片桐君に促す。


「分かってるぜ佐之っち。明日乃を守れるのは俺たちだけって事はな」

「分かっていればいい。彼女の攻撃は非常に特殊だ。責める分にはいいが、守りはなきに等しい」

「そこを俺らでカバーする、だろ?」

「そうだ。後その呼び方は止めろ。虫唾が走る。不快だ」

「硬いこと言うなよ。俺とお前の関係だろ?」

「しね!」


 返す言葉で片桐君は不意打ちで空から強襲してきた鳥型の魔物を斬り伏せ、なんてことない様に言う。そこには男の友情が生まれ……るわけないか。どう見たって片桐君が佐之君を口説いている様にしか見えないし。

 それもこれも佐之君の女装が似合いすぎてるのが悪いんだよ。口では文句を言いながらも段々様になってきているし。


 でもちょっと待って。君たちの言う切り札ってもしかしなくても私の事だよね? 

 私はただお料理を振る舞ってるだけなのに! 

 どうしてみんなの勘違いが加速して行くの? 

 誰か、この中にツッコミが得意な方はいませんか~~!? 

 ツッコミを、ツッコミをくださーい! 


 少しして明らかにこの先に強力な魔獣が出ますよと言いたげな場所に出る。

 と言うか、滲み出る瘴気で騎士団の皆さんが不具合を訴えてる。

 その中でも平気なのは片桐君と佐之君、私ぐらいで、ここから先は私達三人でしか進めそうもなかった。


「気をつけていってくださいまし明日乃様」

「ごめんなさい、リリアーナ様。本来ならば王城でお帰りを待っていただく立場なのに」

「いいえ。逆にここまでご一緒できてうれしく思います。やはり明日乃様は勇者様のお一人。わたくしの目に狂いはありませんでしたわ」


 すごくいい顔で言う王女様。それを見守る騎士団の皆さんもそうだけど、そこの男子。君たちはそれで良い訳? 

 仮にも異世界での王女様とお近づきになることは男子の夢だと思うんだけど、それが何故かわたし。同じ女子に取られちゃってる状態なんだけど!? 


「明日乃が相手なら間違いない。安心してお勧めできる」

「どこの馬の骨かわからない奴に任せるなら心配だけど、明日乃は同性だから任せて安心だと思ったんじゃない? 僕? 僕は彼女が怖い。恋愛対象者としては見れそうもない」


 すごくいい顔で片桐君。佐之君は少し震えてた。まぁ女装の先導者だもんね、リリアーナは。

 そんな悲壮とは程遠い私たちにさらに追い討ちをかける声が響き渡る。

 そうら、死亡フラグがおいでなすった。


『グアハハハハハッ、我は四天王が一柱、氷のガルガンチュラよ。魔王様に楯突く者どもがいると聞いて馳せ参じたが、我の見間違いかのう?』


 山が震えている。

 否、それが魔王軍四天王の肉体であるとその場にいた者達は直ぐに理解できなかった。

 見上げるほどの大きさ。

 真上からかけられる声。

 目の前にあり山そのもの。それが声の主の正体だった。


「こんな化け物だなんて、聞いてないぞ」


 佐之君は震えながらも声を絞り出して言う。

 片桐君もそうだ。真上からのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、剣を支えにして辛うじて立ち上がっていた。


 私? 私は特になんともなかった。

 なんでかわかんないけど。さっきの肉じゃがを食べてからと言うものの、恐怖は微塵も湧いてこないの。不思議とね。


『哀れだな、脆弱なるものどもよ。我の一撃を持って魔王様に楯突いたことを後悔しながら朽ち果てよ!!』


 壁が、大地が真上から降ってくる。

 影を落とした岩盤は、敵の掌。なんて大きさ! 

 しかし片桐君と佐之君は動けない。

 ここで動けるのは私だけ。ならば……! 


「ここは私がやってみる」


 出来立ての熱々コロッケ。それをリュックサックに詰め込むだけ詰めて、一歩前に出る。


「無理だ、明日乃!」

「そうだ、君の身体能力じゃ……」

「つべこべ言わない! 今の君たちが動けないんだから私が行くの。大丈夫だって、いつもみたいに上手くやるから」


 精一杯の虚勢を張って。

 私は一人で氷の四天王へと立ち向かった。


『む? 一人我の幻術から抜け出したものがおるな』


 幻術。通りでいつまで経っても岩が落ちてこないと思った。しかし幻術とは言え、四天王ガルガンチュラが手を掲げているのは同じ。

 死を悟ったものだけがその幻術にかかりやすいとかそう言う設定なのだろう。そう思えば色々と納得がいく。


『グアハハハハハ、たった一人で何ができる?』

「私にできる事は料理のみ! 食らいなさい、これが私の渾身のコロッケだぁ──!!!」


 背負っていたリュックを担ぎ、いくら私がノーコンでも入るだろう至近距離から四天王への口へと投げ込む。


『フン、脆弱なるものが作ったにしては旨いではないか!』

「食べたね?」

『何!?  グァアアアアアアア!? なんだこれは! 我の肉体が崩壊して行く!』

「私の料理は私以外の物が食べると凄い毒になるんだ! すごく最低で最悪で最強なこの能力、食べたら最後なんだからね!?」


 グラグラと足元が揺れる。四天王ガルガンチュラが死んだことによってその肉体が崩れようとしているのだ。

 岩と見紛うほどの氷の塊。それにピシリとヒビが入り、私が全力ダッシュで下山した頃、氷は砕け散ってその場で霧散してしまった。


 後にはただ静寂だけが残っている。


「勝利!」


 私はみんなの前で無傷で帰還を果たすのだった。もーぅ生きて帰れたのが嬉しいからってそんなに抱きつかなくたっていいのにさ。

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