帝国崩壊の時③
帝都への上陸を果たしたアルフォンス軍の進撃は快調そのものだった。
通りごとに僅かな抵抗を受けるものの、特段の滞りも無く占領域を拡大しつつあった。
そしてアルフォンス軍の築いた橋頭堡を後続の連合王国軍が拡張していく。
二段構えの作戦に手応えを覚えていたヴェルナールの表情は、しかし次の瞬間曇ることになるのだった。
「斥候部隊が戻りません」
自身と行動を共にする部隊長からの報告にヴェルナールは渋面を浮かべた。
「嫌な予感がするな……」
この数年で数々の戦場に立ち続けたヴェルナールの勘が警鐘を鳴らしていた。
「各部隊長に伝えてくれ、密集陣形を組み敵襲に警戒せよとな」
だがその命令に前後する形で、ヴェルナールにとって最大の障壁が姿を現した。
「前方、敵騎兵来ます!!」
法皇聖座サンタ・マリア大聖堂へと至る大通りの緩やかな坂の上に、白銀の甲冑に身を包んだ騎兵が姿を現したのだ。
「コルネリウスも後がないというわけか……」
ヴェルナールは、坂上の騎兵部隊が法皇聖座を守る最後の壁として名高い騎兵部隊『
「騎兵来るぞ!槍を前に突き出せ!!」
分散進撃によりわずか三百余りとなったアルフォンス本隊に対して敵は重騎兵五百だった。
「閣下、重騎兵の威力は閣下が一番よくご存知のはず、となればここは多少の損害を覚悟するより他はありません」
ヴァロワ=カロリング国境で帝国軍主力と対峙するノエルやトリスタンに変わり副官として随伴するアンドレーは、そう言うと槍を握った。
「お前、まさか……」
ヴェルナールが引き止める言葉を言いかけるとアンドレーはそれを遮った。
「ただで死ぬほどこのアンドレーの命、安くはありませんよ。うち漏らした敵の掃討お願いいたします」
アンドレーは臣下の礼をとると、馬上の人となった。
「騎兵隊、我に続け!!」
歩兵達が避けて開けた道を粛々と、アンドレーは百五十余りの騎兵を率いて出ていく。
「伝令、周囲の友軍へ走れ」
ヴェルナールは見送るしか出来ない自分に無力感を感じつつも、出来うる限りのことをしようとした。
「フハハ、異教徒共が自ら槍の錆になりに来おったわ。願い通りにあの世に送ってやるとしよう。突撃!!」
『
「我らに怯えて法皇聖座に閉じこもった腰抜けに、アルフォンスの躍進に騎兵ありと見せてやれ!!」
アンドレーが一声かけると、それに続く男達は
「おぉぉぉぉぉっ!!」
と湧き上がった。
「その意気やよし、突撃!!」
敵同様に通りの幅いっぱいに隊列を組んだ騎兵がアンドレーを先頭にして駆けていく。
「頼むから生きて帰って来てくれよ……お前たち」
アンドレーが何のために坂上からの重騎兵の突撃に対して突撃をしていくのかを理解しているヴェルナールは、固唾を呑んでその様子を見守るしかなかった―――――。
謂われなき理由で領地を没収されそうなので独立してもいいですか?〜天才公爵の興国譚〜 ふぃるめる @aterie3
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