壊れてゆく非力な最強の冒険者

主人公はともすると自己中心的でお調子者で周囲の評価を気にするナイーヴな性格…でも16歳という年齢相応かなと思える。年上の女性の母性本能をくすぐるタイプなのかも。
所謂「ファンタジー追放モノ」ですが、追放理由は魔法剣士にありがちなアレ。納得できちゃう。なんならそれもメンバーの温情じゃないかと思ってしまう。
むしろ周囲の元パーティーメンバーや幼馴染が「立派」すぎて主人公の精神的未熟さが目立ってしまう。不幸!
そんな若者が突然、世界を救い得る能力を”発見”してしまったら。
その第一歩で全く事故のような出来事で、取り返しのつかない罪を背負ってしまったら。

世界観や主人公の内面描写が丁寧で、すんなりと物語に没入できます。作者のユニークな視点も楽しい。
物語は基本的に軽快な会話と一癖ある展開でコミカルに進んでゆきますが、要所に唐突に挿入される狂気、そしてサイコホラーと見紛う描写――この背中合わせの正気と狂気。狂気の中にある冷めた目こそ「学校のデッドリー怪談」でも見せた作者の真骨頂でしょう。

「罪を曝け出して罰せられたい」「でも憎まれるのは怖い」「志を継いで自分が世界を救おう」「そんな資格があるのか」「逃げてしまおう」「故郷との絆を捨てるのは嫌だ」…人間臭い、あまりにも人間臭く愛おしい葛藤の中でどうにか落としどころを捜そうともがくも、その度に空回りし、”才能”を持ち腐れたまま親しい人を困惑させ傷つけてしまう主人公。徐々に罪の意識に壊れてゆく非力な最強の冒険者。

この先、主人公に救いの道はあるのか?それとも破滅こそが救いなのか?お薦めの一作です!