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「だから言ったんだよぅ」と、
「ええまあ、たしかに、失敗したなとは思います。だけど、冷たいやつのほうが好きなんですもん」
「『もん』ってかわいいね」
「……
「だからかもね」
「なにがです?」
「あったかいの作るの、ヘタなのかも」
「ああ、なるほど……
「それか、雪子ちゃんのベロがおかしいか」
「そのセリフそっくりそのままお返しします」
「うわぁ、
「そんなこと言ったら、ぜんぶそうですよ、言葉なんて」
「まあね。――ねぇ、雪子ちゃん」男の声は、人生で一番
「え、なんです? あらたまって……」、対する女はギクリと
「よかったら……もう一回おソバ食べない? 列車、まだ
「
「さむいんでしょ? 雪子ちゃんがあったかいのを食べて、僕が冷たいの食べてみるよ」
「
「え? でも……食べれるよね? いつもはあんなに……」
「そういう問題じゃないですよっ! でもまあいいです……行こうじゃないですか!
「マズい思いするかもしれないけどね」
「さむいよりはいいですよ!
「声大きいよ? ここホームなんだから……」
「う、すいません。というか先輩、冷たいのでいいんですか? けっこう冷たかったですよ?」
「うん。マズいほうが嫌だなぁ僕は。まあ、冷たいのもマズい可能性あるけど」
「こだわりますねぇ。そんなに私を味オンチにしたいんですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ……。でも、味オンチは
「武器?」、ボキと首の
「たくさん美味しい思いができるし、なんでも食べられるし」
「まあそれはたしかに……。でも恥ずかしいじゃないですか」
「人と
「それが
男女の声は、ベンチから徐々に遠ざかっていく。
「ん、なんだっけそれ?」
「パンケーキを、どういう
「そうだっけぇ?」
「ですよ。それで……」
「……う~ん、円盤かなぁ」
「ああ、なんかさっきも言ってましたね……、で、どういうことです?」
「だからね、ハチミツ味の円盤だなぁって思いながら……」
やがて二人の声は、雨だれの静けさの向こうへと抜けた。そして、それと入れ違うように、
降りしきる雨を
いつからそうしていたのか、三十男は、ベンチに横になり
「……おかあさん、もうたべられ……ないよ……」
背中合わせる腹の虫 倉井さとり @sasugari
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