私のことを大好きすぎる後輩くんに唾液と媚薬入りチョコを渡したら返り討ちにあった

赤茄子橄

本文

のぞみ先輩。このチョコなんですけど......」


「ん......?もしかして、おいしくなかった......?」


「いえ、それはありえません。美味しすぎます。神の召し物です。食べてしまった僕は原罪を背負わざるを得ないレベルですよ。そうじゃなくてですね......」


なんかすっごく褒められちゃった!?

そこまで喜んでもらえたんなら作った甲斐があったなぁ〜。


けど、じゃあ何が不満なんだろう......?


「な、何かな?」


もっと純粋に喜んでもらえるだけだと思ってたのに、想像していなかった煮え切らない彼の反応に、自作のチョコに何か問題があったんじゃないかと不安になる。


もしかして、アレを入れたのがばれちゃってドン引き............とか?

それとも、もうアッチの効果が出てきたとか......?


いやいや、それにしては早すぎるし、さすがに気づかないよね。


ドキドキと緊張して心臓が早鐘を打つ私を焦らすみたいに、数瞬の間が置かれて、まぼろくんがゆっくりと口を開く。


「............どうして......どうして希先輩の身体の一部、髪の毛とか爪とか血液を入れてくださらなかったんですか!?」




私の好きな人は、ちょっとおバカなところがあって可愛い後輩くんなんだ♫



*****



====

のぞみ <放課後、生徒会準備室で会える?>


まぼろ <もちろんです!>


のぞみ <じゃあ部屋で待ってるわね>


まぼろ <はい!全力ダッシュで向かいます!愛してます希先輩!>

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メッセージアプリCHAINチェインに表示された彼との最後のやり取りを見直して、ニヤニヤしてしまう。

脈絡のない愛の言葉にも嬉しくなってしまう私は、とっくに彼に堕ちきっている。



今日はバレンタインデー。


前々からたくさんアプローチしてきてくれていた2学年下のかわいい後輩、葦原幻あしはらまぼろくんに手作りチョコレートを渡してあげようと思う。


間もなく訪れる運命の時間、放課後の到来にドキドキしてじっとしていられない私は、生徒会準備室にある1つの白い長机の真ん中に座って、その板上で小さな四角い箱を手で弄んで、そわそわと終礼の終わりを待っている。


雑貨屋さんを何軒もまわって探したハートがたくさんあしらわれたピンク色の可愛い包装紙に包んだ手のひらサイズの箱。

何日も前から、何度も試行錯誤して作り上げた渾身の出来のチョコレートトリュフを4つ、格子状に詰め込んでみた。


1つはブラウンのチョコだけのプレーンなもの。

他には、カラースプレーをいっぱいにふりかけたものと、ホワイトチョコの球体にチョコソースを線状にひいたもの、それから、アーモンドを砕いたもので包んだものを詰めた。


どれも複数作ってみて味見するのと同時に、一番見た目の出来がよかったものを4つ入れた。

どれにも私の唾液をちょっと混ぜてみたのは内緒。


好きな人に、内緒で私の体液を飲ませてあげられるなんて、素敵だよね♫

まぁ、普段から毎日彼のために作ってるお弁当にも、いつも唾液を混ぜ込んであるから、なにも今日だけの特別なことってわけじゃないんだけどね。


けど、バレンタインに男の子に手作りチョコを渡すなんて、この18年間で1度もない。

幻くんならきっと、いや間違いなく喜んでくれるとはわかっていても緊張する。


けどこのドキドキは、チョコを喜んでもらえるかどうかの不安からくるものじゃない。いや、それもちょっとはあるんだけどね?



幻くんは半年前まで私が会長を務めていた生徒会執行部の後輩で、2つ下の学年の男の子。

彼が1年生で私が3年。


私はすでに退陣した身だし、あと数ヶ月でこの学校を卒業してしまうわけだから、彼と関係を進めるなら今が数少ないチャンス。


実際、私達3年は自由登校の期間に入ってるから、本当なら私は学校に来る必要もなかったし、今も1、2年生は終礼の時間だろうけど、私は一人、生徒会準備室で暇を持て余している。



そうこうしているうちに、キーンコーンカーンコーンと放課後の到来を告げるチャイムが鳴り響いて、私をビクつかせてくれる。




タッタッタッと力強く速いリズムを刻みながらこちらに向かってどんどん大きくなる足音が聞こえる。

間違いなく幻くんの足音だ。


たった半年しか一緒に居なかったのに、足音だけでわかるようになったのも、ひとえに愛ゆえだよね!


まだお付き合いはしていないけど、それは私が受験が終わるまで待っててほしいってお願いしているから。

そもそも初対面のときには幻くんから告白されてたし、それからも毎日のように真摯に求愛してくる彼のことをとっくに大好きになってる。


私達がまだカップルじゃないのは、彼とのお付き合いを始めてしまったら、私達は欲にまみれた爛れた生活を送ってしまうに違いなくて受験に大いに支障が出ちゃうだろうと思っていたのもあったし、それにお付き合いを始めるのはアノ計画が実ってから............ふふふ、それも今日でとうとう..................ふふふふふ。


おっと。興奮して涎が出ちゃってた。

こんなだらしない表情、幻くんには見せられない。かっこいい先輩の姿を見せておかないと!


自分の頬を手のひらでグニグニと整えて、彼の入室を待つ。



ガラガラッと教室の扉が開かれる。


この生徒会準備室は普段誰も来ない。

生徒会執行部が使う備品が数点おいてあるだけの物置部屋で、主要な教室からも離れているから、よっぽど特別な用がある人しか来ないはずの場所。


だからさっきの足音がなくても、ここに来て扉を開けてくれたって時点で、それが彼なのはほとんど確定してるというわけ。



「希先輩!すみません、遅くなりました!」


とても元気のいい挨拶を投げかけてきてくれた彼は、その声にピッタリの満面の笑顔をしていた。


「いいえ、全然遅くなってないわ。っていうか、むしろさっきチャイムが鳴ったばかりなのに速すぎるくらいだと思うのだけど?」


実は幻くんが教室に入ってきたのはチャイムが鳴り終わるのと同時くらいだった。

あんまりにも速い。


終礼を途中で抜けてきたのかと思わされるほどだけど、幻くんはそういうズルは絶対にしない人だ。


「終礼はちょっと早めに終わっていて、チャイム鳴るの待ちだったので」


なるほどぉ......?


「いや、それにしても速くないかしら?」


「一瞬でも速くここに来れるよう、競技かるた選手くらい耳を澄ませて、チャイムが鳴り始める瞬間の音を拾って全力で走っていましたから!」


確かに聞いたことがある。

強い競技かるた選手は、和歌の最初の一音が発声されるよりも前の呼吸音などを聞き分けて、超高速で札を取るんだとかなんとか。


チャイムの音は聞き分けて取る札を判断したりしなくても、鳴るか鳴らないかだけに注意してればいいのだろうけど......。

それにしてもそこまでするかしら!?


この子、本当に私のこと大好きなのね♡

かわいい♡


「そうなのね。そんなに私と会いたかった?」



大好きな飼い主に遊んでもらってるワンちゃんみたいに、ブンブン振れるしっぽが見えるくらいに、あんまりにも嬉しそうに話すから、ちょっとだけからかってみようと思って言ってみたんだけど。


「もちろんです!希先輩が僕の生きる意味ですから!」


と、何の臆面もなくノータイムで返されちゃうと、逆に私のほうが照れてしまう。



「そっ、それよりも!今日来てもらった理由なんだけど!」


年上の私がリードするどころか主導権を握られっぱなしなのはいただけない。

強引に話を切り替える。


「はいっ!」


キラキラとした表情で、心底嬉しそうにする幻くん。

今日という日は、みんな意識してる特別な日なんだから、私の用事も当然わかっているらしい。


「あのね、幻くん。こ、これ......「葦原あしはらくん!」............え?」


「あっ......」


私からのチョコの受け渡しは見事に見知らぬ女子生徒の声に阻まれてしまった。

声を出すと同時に教室の入口からこちらを見た彼女は、中の様子が予想外だったのか、「タイミングを間違えた」とばかりに気まずそうな表情をしていた。


あぁ......きっと彼女は幻くんを追いかけてきて、この教室に入った彼に急いで声をかけただけなんだろうなぁ〜。

プレゼントを渡して告白するために。


あのスリッパの色は、幻くんと同じ1年生。

チャイムと同時にここにダッシュしてきた幻くんを追ってこれたってことは、きっと彼女は幻くんのクラスメイト。

普段から彼と同じ空気を吸って、同じ授業を受けている女。




..................妬ましいわ。

私より長く彼との時間を享受している上に、今も、私の大事な彼との時間を横取りしようとする泥棒猫め......。

あまつさえ、大きな声で騒がしくして、さっきまでの素敵な2人の甘い空間をぶち壊しにするなんて。



「ちょっとあなた、騒がし......「何か用ですか?」............幻くん?」


私が苛つきながらも、せめて元生徒会長として、私怨ではなく正論をぶつけて黙らせようとしていたところ、幻くんの信じられないくらい冷たい声が割って入った。


「え、えっと......その......会長さんとのお話に割り込んでしまったのは、ごめんなさい......。会長さんがいるって知らなくて......」


彼女が言う『会長』とは私のことらしい。もう半年も前に『元』になってるんだけどなぁ。

っていうか幻くんの表情からさっきまでの甘さが吹っ飛んで跡形もない。


「そういうのはいいので。あと彼女は会長ではなく、元会長です。お間違えのないよう。それで、僕に何か用ですか?」


しっかり訂正してくれた。私が気になることは絶対すぐフォローしてくれるのよね。

さすが私の幻くん♫


あともうほんと、いつ見てもびっくりするわね。

私に接してくれるときとの温度差が激しすぎて風邪を引いてしまいそう。私は喉から。なんちゃって。


「あ、ごめんなさい......。あの......その............。あ、私は秋津島あきつしま先輩が終わったあとでも............「希先輩との用事は永遠に終わらないので先にあなたの方を済ませてください」............わ、わかりました......」


最後まで言わせてあげない幻くん。

私は嬉しく感じちゃうけど、私があの子の立場だったらとっくに心が折れてるわね。


あまりにも脈がなさすぎて可哀相になってくるわ。

ま、私の幻くんに懸想した報いね。甘んじて受けなさい。


あと『秋津島先輩』っていうのも私のこと。秋津島希あきつしまのぞみ。それが私の名前。

私は自己紹介してないけれど、会長をしてた名残か、覚えてくれていたらしい。



「こ、これを受け取ってください!」


彼女は顔を真っ赤にしてうつむきながら、ハートがあしらわれたピンク基調の小さな箱を両手で幻くんに差し出していた。

紛れもなくバレンタインチョコ。しかも明らかにド本命丸出し。


この子、私の存在を知っていて、さらには私の目の前で幻くんに本命チョコを渡すなんて、いい度胸じゃない。


幻くんなら何の心配もいらないとは思いつつも......さすがにちょっと心配になってしまう。

この子、顔はいいし、声も仕草も可愛らしくて、男の子からしたら守ってあげたくなっちゃいそうな要素の詰め合せみたいな女の子だもの。


万が一ってことがないとも限らな............「ごめん、それ手作りだよね?なら受け取れないな」............くもないみたいね。さっきの塩対応もあったしね。全然ありえない話、ただの杞憂だった。


「そ、そんなっ!?受け取ってももらえないんですか!?」


「受け取れないですね」


冷たい目と声でただ淡々と返事を返す幻くんの姿は、本当にさっきまでワンちゃんみたいなキラキラした表情をしていた彼と同一人物なのか不安になるくらい冷え切っている。


「本命なんです!かなわないとしても、せめて受け取ってもらうくらいはっ」


「無理です。僕は希先輩以外から手作りのものを受け取る気はありません。僕は生涯、絶対に希先輩を逃しませんからあなたにチャンスは訪れません。とても申し訳なく思いますが、あなたには僕より素敵な人が現れますのでそちらに注力してください」



うふふっ、しれっと私への愛を囁くなんて罪な幻くん♡


あの子も当然のごとく涙目になってる。可哀想。

でも、脈はないのはわかってただろうっていうのと、幻くんが意外と優しい言葉・・・・・をかけたからか、まだ涙は溢れてはいないらしい。

まだプルプルと震えているだけ。


普段の幻くんだったら、「僕より素敵な人が現れる」なんてフォローしたりしないもんね。

きっとさぞかし機嫌が良かったんだろうなぁ。



......やっぱり私からプレゼントがあるからなのかな?

あはっ。ほんとに幻くんは素直でカワイイなぁ。


「申し訳ないですが、どうぞお引取りを」


「う......う......ご、ごめんなさーい!」


幻くんの容赦のない一言に、結局あの子は泣きながら去っていった。

あらあらまぁまぁ。


幻くんは少し申し訳なさそうな顔であの子の後ろ姿を見送っていた。



告白され慣れてる幻くんは、いつも、相手がきっぱり諦められるように厳しく接するようにしているらしい。

そのせいで世紀の鬼畜野郎として学校中で名を馳せているみたい。


それでもさっきの子みたいに好きになって告白したりチョコを渡そうとしたりする子がいるんだから、すごい勇者よね。


まぁ、文武両道、眉目秀麗、質実剛健、才気煥発とか、そういう褒め言葉を一身に詰め込んだみたいなカッコカワイイ幻くんだから、それくらいモテちゃうのも仕方ないとは思う。


でも本当は真面目な幻くんはそれで相手を傷つけることにちょっと罪悪感を抱いてるみたい。

......自分が傷つくならそういうやり方辞めたら良いのに。


ま、私には得しかないから言ってあげないけど♫



「可愛らしい子だったわね?」


「そう、かもしれませんね?」


「どうして疑問形なの?」


「希先輩の可愛さがあまりにも飛び抜けていて、他の方の可愛さは僕にとってはそれほど差がわからないので......」



やぁん♫

すぐそうやって私を喜ばせる〜。ふふふふふ〜。


「希先輩、凄くだらしなくて可愛いお顔になってますよ」


しまった、つい表情が緩んじゃった。


「......おほんっ。それで、ようやく私の用件ね!」


「はい、すみません。僕のせいで中断させてしまって」


「いいのよ。幻くんのせいじゃないんだから。それでね、これ、私からのバレンタインチョコ。受け取ってくれるかしら?」



なんとか無事に言葉にできた。

ギュッと目を閉じて、頑張ってラッピングした箱を両手で彼に差し出す。







ん?あれ?彼からお返事がない?

なにか間違えた!?



恐る恐る目を開けてみるも、沈黙の意味を知るのが恐くて彼の表情を見ることができない。

私は視線を彼のお腹の当たりから上に動かせないでいた。


ややあって、ようやく聞こえてきた幻くんの声はいつもと違うか細く、震えているようにも感じられるものだった。



「........................手作りの本命、ですか?」


「え?えぇ。もちろんそうだけど......。ダメ、かしら?」


まさかさっきの子が言われてたみたいに受取拒否されちゃったり!?

いや、けどさっきの子には私からのものだけは受け取るって言ってくれてたよね!?


え、ほんとにどうしたんだろ!?


いい加減理由を知りたくて、彼の顔を見てみる。


「え、えぇ!?幻くん!?どうして泣いてるの!?」


彼は両目からポロポロと涙をこぼしていた。


「いえ......いえ、グスッ......。あまりにも嬉しすぎて、感情が爆発してしまいました。ご心配をおかけしてしまってすみません」


どうやら感動のあまり言葉を失ってくれてたらしい。

可愛すぎてキュンキュンしちゃう。



「そんなに喜んで貰えるなら作った甲斐があったわ。はい、どうぞ」


「ありがとうございます......。ありがとうございます......」


幻くんはチョコを受け取ると宝物を護るみたいに、両腕で胸に抱えて、うずくまりながら何度もお礼を繰り返した。


「うふふっ。そんなに抱きしめたら潰れちゃうわよ?」


「あっ、そうですね。すみません」


あはっ、また謝ってる。

今日は幻くん、謝ってばっかりね♫


「大丈夫よ。それよりも、いっぱい喜んでくれて嬉しいわ。もし喜んでもらえてなかったら......幻くんを刺しちゃってたかもしれないし」


無いと思うけど、万が一喜んでもらえなかったら幻くんが喜ぶまで痛めつけるのも辞さない覚悟だったから、本当によかった。


「希先輩に刺されるなら本望ではありますけど、希先輩の手を汚させるのも嫌ですし、よかったです。まぁ僕が先輩からの贈り物に感謝しないわけありませんけど」




「ふふっ、ありがと♫」


ここまでは順調。いや、順調以上に喜んでもらえた。

でも慢心はダメよ希。


ここからが今日の計画のキモなんだから。


「ところでソレ、せっかくだし今ここで開けて食べて感想を聞かせてもらうことはできないかしら?」


誰もこないこのお部屋で、私とふたりっきりのここで、幻くんに食べてもらうことがまず計画の第一歩だ。



「もちろんです。では、いただきますね」


そういって丁寧に丁寧に包装を開いていく幻くん。

大事にしてもらってるのが分かって嬉しい。


しばらくして中身を取り出すと「うぉぉぉぉぉすごいぃぃぃぃ」って変な叫びをしてたから、クスって笑ってしまった。


よしよし、まずは第1段階クリア。



「あ、じゃあ、あーんしてあげようかしら?」


「そ、そんな贅沢がこの世で許されるんですか!?」


「許されるわ♫」



反応がまた可愛い♡

もう延々と可愛いが続くわね。

かっこいい素敵な男の子が可愛いと、ほんと最強ね〜。


「では、お願いしてもいいでしょうか」


「もちろん!じゃあ、お口あーんして?」



私がトリュフチョコを1つつまんでそう言うと、幻くんは素直に少し上を向いて口を開いた。


ふふ、これを食べてもらえば計画は成功したようなもの。

幻くんは今日をもって、完璧に一生私の側を離れられないようになるのよ♫


「はい、あーん♡」


パクっ。モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ。


うん、モグモグが長いわね。

恍惚とした表情をしてるし、美味しいと思ってくれてるみたいだけど......。


ゴクンッ。


「あぁ......もう早くも1つ目を飲み込んでしまった......。もっと味わいたかったのに......」


あんなにじっくり時間をかけて咀嚼してたのに、まだ足りないの?

欲張りさんだな〜。嬉しいけど。



「ふふふっ、また作ってあげるから。今は楽しむことだけを考えて?」


「あぁ、希先輩、ホント女神です......」


さっきの子に見せてたのとギャップのありすぎる、でも私にはいつも見せてくれる笑顔。

今日はそれに何倍も輪をかけて輝いてるから破壊力が凄いわ。


こころなしか頬も上気してきてる気がする。

チョコに混ぜたおクスリが効いてきたのかしら?


いずれにしても、幻くんはまだ理性を・・・・・失っていない・・・・・・のだから、もう少し時間稼ぎをしましょう。


「幻くんの表情を見る限り、あんまり聞くまでもないかもしれないけれど、チョコのご感想はいかがかしら?」



どんな素敵な言葉で褒めてもらえるのかしら。......と思っていたら、幻くんの表情は想像していたような悦びだけにまみれたものじゃなくなっていた。



のぞみ先輩。このチョコなんですけど......」


さっきまでの明るいだけのテンションじゃなく、ちょっと落ち込んだ声音で語りだす幻くん。


あれ?なにか変な質問でもしてしまった?

それとも、喜んでくれてたのは『私が本命チョコを準備した』ってことだけで、味の方は散々だったのかな!?


「ん......?もしかして、おいしくなかった......?」


「いえ、それはありえません。美味しすぎます。神の召し物です。食べてしまった僕は原罪を背負わざるを得ないレベルですよ。そうじゃなくてですね......」


なんかすっごく褒められちゃった!?

そこまで喜んでもらえたんなら作った甲斐があったなぁ〜。


けど、じゃあ何が不満なんだろう......?


「な、何かな?」


もしかして、私の唾液と媚薬を入れたのがばれちゃってドン引きされちゃったとか?

それとも、もう媚薬の効果が出すぎて、喋れなくなってきた、とか......?


いやいや、いくら即効性とはいえ効果が出るにしては早すぎるし、私の唾液とか、さすがに気づかないよね。


ドキドキと緊張して心臓が早鐘を打つ私を焦らすみたいに、数瞬の間が置かれて、幻くんがゆっくりと口を開く。





「............どうして......どうして希先輩の身体の一部、髪の毛とか爪とか血液を入れてくださらなかったんですか?」


と、少し青くなった顔で尋ねられてしまった。




「へ?」


幻くんはいつもちょっと変わってるけど、いつもに増して何を言ってるのか要領がつかめない。


「えっと......どういうこと、かな?」


「いえ......希先輩ほど愛に溢れたお方なら、本命チョコには希先輩の一部を混ぜ込んだりして、希先輩を僕の身体の一部に取り込ませてくれたりするかと思っていたので......。もしかしたら僕のことあまり好きじゃないのかもしれないって......」



あぁ......?なるほど?

お可愛い勘違いね〜。


「大丈夫よ、ちゃんと私の一部は入ってるから♫」


涎を垂らしてあげてるんだから♫


「まさか、希先輩の唾液のことですか?」


「え?えぇ......」


き、気づいてたの!?


「唾液も嬉しいですけど、普段のお弁当にも混ぜていただいてますし、しかも唾液って体の一部感弱くないですか?なんていうか、身体から離れてるものっていうか......」


わ、わからない!

っていうかお弁当の方もバレてた!?


「そう、なのかな......?私的には十分だと思ってたのだけど......。っていうかそんなの入れちゃったら味が悪くなっちゃうでしょ?だから、ダメよ。でもそのチョコには愛情たっぷりだから安心してね?」


「あ、そうなんですね!よかった、それなら安心です。けど、希先輩の身体の一部なら、なにが起きても最高に美味しいのでいつか食べさせてください!今回は変に疑ってしまってすみませんでした......」


「いいのよ。むしろそれだけ私のこと大好きってことだものね♫ていうかお弁当に混ぜてたのも気づいてたの......?」


「え?当たり前じゃないですか。希先輩がくださるものの成分を分析すらできなくて、愛してるなんて口にできませんよ!」


うーん、やっぱり幻くんは素敵だな〜。


ついつい惚けた可愛い顔した幻くんの頭を撫でてあげちゃう。よしよし〜!

凄いねぇ〜偉いねぇ〜。





ふぅ。

一通り撫でたし、チョコ食べてもらってからそれなりに時間も経ってきたし、顔もさっきまでより赤くなってるし、そろそろアレの効果が出始めたんじゃないかな?



「ところで幻くん?お顔真っ赤だけど、どうかしたの?」


かなり強烈に効くと評判のおクスリを砕いて混ぜたし、もういい加減幻くんのムラムラも凄いことになってるんじゃないかしら。


「え?いえ、なんでもないですよ」



なんでもないわけないでしょ!


ほら、その証拠にスラックスのお股の部分もすんごいテント張ってるし♫


さぁ、早く欲望に正直になって我慢できずに私を押し倒しちゃいなさい!

そしたら私は全力で嫌がるふりするから!


それでも止まらなくて獣のように交わったあと、涙を流す私を見て、私の初めての体験をそんな形で散らしてしまった罪悪感を、幻くんは一生抱えて生きていくの。


幻くんは私のこと好き好き言ってくれるし、今の所行動でも示してくれてるけど、未来はわからないからね!

これでしっかり責任の意識をもってもらって、生涯私の側にいてもらうの。


それがこのバレンタインのメインの計画!


おクスリは3錠も飲めば正気を失って何日もサカってしまうくらい強力だときいてるし、今回はそれを5錠ずつ混ぜたんだから、もう幻くんはとっくに限界のはず。

まだちゃんと話せてるのは、理性で抑えてるのかな?



「私に嘘つかなくて良いんだよ?辛いなら言ってね?」


「いえ、ほんとになんでもないですよ?」


あれー?おかしいな。




それから30分くらい雑談してても幻くんの様子は変わらない。

おかしい。おかしすぎる。


パパに食べさせたときは10分後には目がうつろになって、それから1週間くらいママとほとんど寝室からでてこなかったくらい効いてたのに。


このままじゃ私の計画が台無しになっちゃう。


私から誘ったんじゃだめ。

ちゃんと幻くんが無理矢理したっていう事実がないとだめなのに。



もうちょっと欲求を刺激してあげたら壊れてくれるかな?



「ふぅ〜。ちょっと暑くなってきた?ね?」


私はそうやってブラウスの胸元をパタパタとはためかせた。


嘘じゃないけど、パタパタするほど暑くはない。

むしろ幻くんの顔の方が真っ赤で暑そう。


けど、どう?

私の胸はめちゃくちゃ大きいわけじゃないけど、好きな子がブラチラしてるよ?

襲っちゃいそうでしょ?いいんだよ、我慢しないで?



「あー、そうですねー。確かにちょっとあったかいですよね〜。ドア開けます?」


「開けなくていいから!!!!!」


「あ、そうですか?」


危ない危ない。

せっかくの密室アドバンテージをみすみす失ってしまうところだったよ。


それにしても幻くん、顔は赤いのに表情は全然変わらない......。

勝負するとき用の黒くて大胆なやつなのに......。めっちゃしっかり見てたのに......。


もうあとちょっと、なんだよね?

もうひと押しすれば堕ちてくれる、よね?



「あー、やっぱり暑いわ〜」


身体を彼の方に向けて脚を軽く開いてスカートをパタパタしてみた。


「......希先輩」


おっ、とうとう限界かな?


「具まで見えてますよ。淑女なんですから、そういうのはほどほどにしてくださいよ?っていうか僕以外の前では絶対しないでくださいね?」


なっ!?

言うに事欠いてお説教ですって!?


「幻くん!?あなた、もっと他に私に言いたいことがあるんじゃないの!?」


いい加減ガマンの限界ですって言いなさい!

無理矢理襲いなさい!


「え?あぁ、そうですね」


うつむき加減で幻くんが近づいてくる。


表情が見えないけど。いよいよだ〜!

全力で嫌がる演技するぞ〜!







「はい。先輩」


「え?」


俯いていた顔を上げてみると、満面の笑顔の幻くんが私に向けて小さな箱を差し出していた。


「えっと、これは?」


「バレンタインです」


「......どういうこと?」


「あー、逆チョコ、的なやつです」


ほへ?あれ、襲われない?


というか逆チョコ?

え、待って、そんなの準備してくれてたの!?

う、嬉しすぎるよぉ!


「あ、ありがと〜!こんなの予想してなかったからびっくりだよ!」


「ははっ、驚いてもらえたのなら準備した甲斐がありました」


爽やかな笑顔で返されちゃった。白い歯がきらめいてる。かっこいい。

ドヤ顔してるのがかわいい。


あ、やばい、私のほうがシたくなってきた......。

だめだめ、このまま私から求めちゃったら年上としての主導権が!


「食べてくれます?」


「も、もちろん!」


私が次の一手に迷ってまごついていると、そんな幻くんからの催促が入る。


「うわぁ、凄い!」


箱を開けてみると一口サイズにカットされたチョコブラウニーがいくつか入っていた。

それぞれ別々のカラースプレーとかソースで彩られていて、すごくきれいな出来に仕上がってる。

私のより凄いかも!さすがだなぁ。


ちらっと幻くんの表情をまた盗み見てみる。


口角が上がってこころなしかニヤついてる気がする......。はっ、さっきの質問といい、さては!



「あっ、もしかして幻くん、さっき私に『なんで爪とか髪の毛とかいれてくれなかったのか』って言ってたし、これにそういうの混ぜてるとか〜?」


図星でしょ?

まったく、独占欲強いんだから〜。


「はい?いやいや、そんなの入れてませんよ。万が一にでも希先輩がお腹下しちゃったりでもしたらどうするんですか。そんなの僕、切腹ものですよ」


あ、あれー?


「あ、もしかして僕がニヤけてたのが気になっちゃいました?やだな〜、希先輩が悦んでくれるかなってワクワクしてただけですよ〜」



なんて純粋そうに笑うの!?


............はぁ......。なんでかわからないけど私の計画は破綻しちゃってるみたいだし、とりあえず一旦置いておいて、今は幻くんがくれたこのブラウニーを楽しむのに専念しましょう。


「そ、そう。疑っちゃってごめんなさい?それじゃ、いただくわね」


パクっ。


「おっ、おいしー!!」


すっごく美味しい!

一口大で食べやすいし、それぞれ違うデコレーションと味で、楽しませてくれるし、とっても最高!


「ほんとに美味しいよ。ありがとね」


「いえいえ、全然です。むしろ食べてくださって、その上喜んでくださってありがとうございます」


「あはは、なんで幻くんが感謝してる............(ドクン)............の?」





「いやぁ、素直に嬉しいですからね〜。好きな人に喜んでもらえるのって」


身体がアツい。

それに幻くんがさっきまでよりもイヤラしくニヤニヤしてる?


......あ、やばい、これ、下着凄いことになってる............。まさか。


「幻くん、まさかさっきのケーキに......」


「え、なんですか?それよりどうしたんですか希先輩。すごく顔が赤いですけど、体調でも悪いんですか?さっきも暑い暑いって言ってましたし、熱があるかもしれませんよ!ちょっと失礼します」


幻くんはそう言い終わるやいなや、体温を測るように私の首筋に手を当ててきた。


触れられただけでビクンと反応してしまう。

多分私が使ったのと同じ媚薬だ。


やられた、このままじゃ幻くんより先に私の理性が限界を迎えちゃう!


「凄くアツいですね。やっぱり風邪かもしれません」


「白々しいわよ幻くん!あなたが私に媚薬を仕込んだんでしょ!?」


「えー?冤罪ですよ〜?なんですか?媚薬?希先輩えっちな気持ちになってるんですか?あー、なるほど、それで体が火照っちゃったと?それで僕のケーキのせいにしようとしてるんですね?だめじゃないですか〜」


この幻くんの顔。絶対一服盛ったわね。

やばいやばい。


「そ、そこまでして私とイヤラしいことしたかったのぉ?まったく、えっちな幻くんね♡」


ここは幻くんを挑発して、ちょっとでも彼の責任になるようにしないとっ。








「何言ってるのかわかりませんけど、僕は大丈夫ですよ!責任取れるようになるまで、希先輩の貞操は守りますから!」


「え?責任取れるまでって......?」


「そりゃもちろん、赤ちゃんができてもしっかり養えるようになるまでです!」


「ふ、ふーん。ちなみにそれっていつ頃の予定なのかしら?」


「そうですねぇ。僕が大学を卒業してからですかね〜。だから、あと6年後くらい?」


「......幻くんはそれまで我慢できるってこと?」


「希先輩のためなら楽勝です!現に初めてお会いしたときから希先輩に赤ちゃん産んでもらいたい願望を抑えてきてますし、今も先輩のチョコに入ってたクスリの効果にもこんなに簡単に耐えられているでしょ?」



そっ、それもバレてたの!?



「あ、バレてないと思ってました?希先輩は本当にカワイイです......。でも僕が普段からどれくらい希先輩から溢れ出てるフェロモンの誘惑に耐えてるかわかってくれてれば、この程度のクスリの効果なんて誤差でしかないことくらいわかったかもしれないんですけどね♫」


「な、なんのことかしら?」


「ふふっ、そうですよね。すみません、失礼なことを言ってしまいましたね」



よ、余裕の笑み......。

この子、まさか私とおんなじようなことを考えてた?


私から無様に身体を求めさせようとしてる!?


どうしようどうしよう......。何も策が思いつかない......。とにかく時間稼ぎしなきゃ。



「そ、それはともかく、幻くんは本当に6年も耐えられるのかしら〜?大好きな私が無防備にしていても襲わない自信あるんだ〜?」


「いけますね」


ぐっ、強情ね。



「プ、プロの人とでも、私以外の女の子とえっちしちゃだめだよ?」


「自分で処理するので問題ありません。希先輩の笑顔の写真さえあれば6年くらいなんてことないですね」


この子ならほんとに6年間私の写真だけおかずにしそう......。



「............自分でするのもだめって言ったら?」


「うーん、そうなったらもうしょうがないですね。夢の中で希先輩をぐっちゃぐちゃに汚して朝起きたときに勝手に気持ちよくなるやつに任せるしかないですね」





多分この子の言ってることは嘘じゃない......。

私が何も言わないと本当に6年も手を出さないで我慢しちゃいそう。



「......男の子なら無理矢理私を襲うくらいしなさいよ!」


「えー、襲ってほしいんですか?」


「そんなわけないに決まってるでしょ!」



嘘。好きなだけ襲ってほしい。めっちゃくちゃに汚してほしい。一生ものの傷を刻み込んでほしい。

なのに幻くんはきっと襲ってくれない。



むしろ私が今にもタガが外れて襲ってしまいそう。



「そうですよね、まさかお付き合いもしてないのに、そういうことするはずないですもんね?」


「え?」


「僕はこんなに好きでいっぱい告白もさせてもらってますけど、希先輩はまだ受験生のままですし、それが終わるまではお付き合いもだめなんですもんね?」


「え、えぇ。そうね......」



「ないとは思いますけど、それまでに僕が他の女性に襲われちゃったりしたら、すみません」


ニヤニヤしてる。

くそう、カッコカワイイなぁもう。


挑発ってわかってるけど。

こんなにミエミエの罠なのに......。


私の中の独占欲を抑えてたダムはこんな一言で決壊してしまい......。












......あ............もう、ムリ。


「そんなのダメに決まってるでしょ。私以外の女が幻くんに触れるなんて許さない......」



私の中の野性が暴れまわって意識が遠くなっていく。

身体が言うことをきかない。


私の意識とは関係なく、勝手にガシッと幻くんの腰のベルトに手をかけて、カチャカチャと外していく。


私は薄れゆく理性の中、幻くんのイヤラしくてかっこよくてカワイイ微笑みが、視界の端に映った気がした。












「希先輩。愛してますよ」


「......私も」

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私のことを大好きすぎる後輩くんに唾液と媚薬入りチョコを渡したら返り討ちにあった 赤茄子橄 @olivie_pomodoro

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