鮭がない。

白川津 中々

「鮭がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ冷食のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「大変申し訳ございませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」



 こだまするご意見ご要望とそれに対する謝罪。着任三日目の新卒店長は早くも洗礼を受けていた。



「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 鮭も鯖も烏賊もなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! なんで冷食からお魚さん達が姿を消しているのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 我が国の排他的経済水域は全て隣国に奪われてしまったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 」


「そいうわけではございません……」


「そうだよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! だって他のスーパーにはいるもんねぇお魚さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! なんならこの店の鮮魚コーナーにも陳列されてますもんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! いるんだよお魚さんはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 冷食コーナーだけから忽然とお隠れになっているんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 何事ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 事件の予感これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? お魚さん失踪事件ぜんぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんん!? 犯人誰だよ俺がぶち殺してやるよ」


「あの、申し訳ございません。仕入れ停止を決めたのは前任の店長でして……どうしても売れ行きが芳しくないとの事で……」


「あぁあの人。じゃ、殺してくるわ。家知ってるし」


「ちょ! ちょっとお待ちを! 仕入れます! 仕入れますので!」


「ふぅん。何時間後?」


「あ、や、一週間後とか……」


「あ、そう。待てねーわ。刑務所に面会きてくれよな!」


「ちょ、ちょーーーーー! ちょっと! すみません! お待ちください! すぐ! すぐにご用意いたしますので!」


「あ? 納品に一週間かかるもんをどうやって今から準備すんの? あの商品生産地も工場も福島だろ? ドライブ気分で向かってる間に日が暮れちまうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお前の体内時計は一日四十八時間なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「二十四時間です……」


「だよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! じゃあ無理って事じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! はい決定。あの店長殺す。名前なんだっけ? 田中だったよな確か。よし。田中殺す」


「だ、大丈夫ですから! か、買ってきます! 他のスーパーで買ってきますから!」


「他のスーパー?」


「はい……他店様から購入いたします……」


「それ売るって事?」


「まぁ……はい……」


「お前それじゃ転売屋じゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ恥ずかしくないんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「す、すみませぇぇんぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「お前よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ売る側がモラル守らなくてどうすんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぶち殺すぞごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! あ、いや、殺すわ。俺転売屋が一番嫌いなんだわ。お前を殺して、田中を殺すわ。そしてこの店燃やすわ。な?」


「ま、待ってください! さしあげます! さしあげますから!」


「……え?」


「他店舗から鮭を買ってきて、差し上げます」


「……あ~~それってつまり、タダって事?」


「まぁ、はい。今回は、お近づきの印という事で……」


「……ふ~~ん。あ、そう。あ~~~~なるほどなるほど~~~~そっかぁ……悪いねなんか」。


「いえ、とんでもないです……」


「大丈夫? そういう事しちゃって?」


「グレーゾーンですが、ギリセーフです……」


「あ、そう……そっかぁ……ちなみに、どれくらいかかる?」


「今から向かいますので、三十分ほど……」


「あ、それくらいなら全然。無理しなくていいよ?」


「あ、無理じゃないです」


「本当に?」


「はい。全然無理じゃないです」


「あ、そう……じゃ、そこの喫茶店で待ってるからさ。持ってきてもらえる?」


「はい。もう全然」


「そっか。じゃ、よろしく。悪いねなんか」


「いえ。大丈夫です……はい。それではお待ちください……」




 店長は走った。冷食の鮭を求め、競合他社が運営するスーパーへひたすら走り到着。流れる汗を拭う事もせず冷食コーナーへ向かった。



 しかし……




「鮭がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ冷食のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 我が国の排他的経済水域は全て隣国に奪われてしまったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」




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鮭がない。 白川津 中々 @taka1212384

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