第二十章 前書きに過ぎない
遠征3日目、ミミリとヒーナはナギサの町にいた。
そこで、生活のために必要なノウハウだったりを学んでいる途中である。
フィーロが元々住んでいた場所だというのもあるのだろう。
町の住民は色々なことを協力的に教えてくれている。
カイゼはその間、南の都ハルバ王国までやってきていた。
この国には、あらゆる専門知識が集結している。
それこそ、この国自体が知識の宝庫と言えるほどであった。
カイゼはハルバ王国の中でも、効率的に知識を集められる図書館までやってきていた。
とはいっても、カイゼも元々知識がないというわけではない。
勉学に関して言えば、それなりに成績などもいい方だったと言える。
もちろん、ギルティというチームについてもかなり調べてきた方である。
では、いったいここに何を集めに来たというのか。
それは、最新の情報である。
この図書館の最大の特徴は、その情報の速さと正確性である。
もちろん、まだ解決していない裏の事件などの記事が見つかることはない。
だが逆に確定した事件やニュースの概要は確実に揃えられると言えるだろう。
そこで、カイゼはとりあえずここで情報収集を始めた。
(とはいっても、ここ数か月のことだ。
あまり、情報に変化はないと思うんだがな。)
記事を探してみれば、ほとんどが勇者に関する話題だった。
カイゼも、コウイチから勇者に関しての話は聞いている。
まさしくコウイチの数時間後に転生してきたらしい。
本名などの素性は、島の誰もが知らなかったようだった。
(にしても、本当にすごい男なのだな。
あの島での事件が霞むほどの大活躍をしているようだ。)
その活躍は、まさしく勇者といえよう。
自分のことは勇者と名乗っているらしく、そこはちょっとカッコ悪い。
誰も本名を知らない理由はそこにあった。
そうしてカイゼ自身が見てこなかった数か月間を遡っていく。
数日で帰るとは言っていたが、今日の記事にたどり着くまで3日もかかっていた。
ようやく、今日の記事とはいうがここまで目ぼしい情報がなかったため正直ガッカリだった。
(まあ、最近事情を知れてよかった。
今日の記事を読んで、少し休んだら戻るか。)
その数分後、カイゼは急いで、図書館をでた。
焦っていたのだろう、図書館にの机には記事が広げっぱなしだった。
見開きのページの見出しには、こんなことが書かれていた。
「魔王軍、はぐれ島と呼ばれる島に向けて進軍開始」
ここはとある馬車の中。
その馬車は空を飛んでいた。
中にいる男は、異常なオーラを放っていた。
「ミミリ、ヴェラル…そしてコウイチという男。
ここはひとつ確かめておかなければなるまい。」
はたまた、とある大きな一軒家。
「また、俺あの夢見ちゃったよ。
魔王が男の子吹っ飛ばす奴。
お前ちゃんと、コウイチに伝えてきたんだろうな。」
「当たり前だ、未来が少しでもかわってくれればいいのだが。」
更にはたまた別の場所。
「オペラードの能力なんてクソ雑魚じゃないの(笑)。
洗脳なんてスキルに頼る必要ないじゃない。
早めに消えてくれてスッキリしたくらい。」
「まあまあ、そういってやるなよ。
彼だって彼なりに頑張っていたんだからさ。
ただ、ちと弱すぎちゃっただけさ。」
「おい、そろそろ主が来るぞ。
私語は慎めよ、愚か者ども。」
結局剝がしてみたら、更に濃くてえぐいものが見えてしまうだけ。
恐ろしい裏の顔がようやく拝めただけ。
今までのストーリーは前書きに過ぎないと言わんばかりの試練がこの世界には残っていた。
そんなことに気付くはずのないコウイチたちは、遠征組の帰りを心待ちにしていた。
「おい、ようやくヒーナたちがこの島に戻ってくるようだぞ。」
「成果はどんなもんだろうかね。」
俺たちはここまで実は結構頑張ってきていた。
そういえば、フィーロさんは前に町に行った時この島までやってきてたんだっけ。
また、住民とか増えたらどうしようかな。
家とか作んなきゃいけないよな、また。
「ねえヴェラル様、新しく知らない人が乗っているとかない?」
「荷物は結構抱えているようだが、人はさすがにいないようだ。」
「そっか、よかった~。」
一安心して、俺たちは拠点に戻って盛大に料理を作り始めた。
結構いなかったから、久しぶりに集まった記念にパーティーしちゃお。
いや、思考が乙女だな俺。
見えてたから、当たり前なんだけどその数時間後に遠征組が到着する。
俺たちは、笑顔で出迎えたが向こうはかなり焦っている様子だった。
「カイゼさんが、情報を集めてたんですけどこの島に魔王が向かっているようなんです。」
「魔王?なんの用事だろうか。」
「いや、魔王ですよ魔王!?」
「逆に魔王が来ているということは、安心だ。
殺すのが目的なら、一番上のものが直々に来ることはなかろう。
それに、我は魔王にも面識があるのでな。」
流石ヴェラル様だ、もうよくわからん。
ミミリ達も焦って戻ってきたのに、拍子抜けだろう。
まあ、俺も警告のこともあったし魔王と戦うつもりは元々ない。
ヴェラル様のお墨付きなら、なお安心だ。
「そんなことより、これからみんなでパーティーしようよ。」
「そんなことより!?…はあ。」
「全く俺は何のためにあんな全力を出したんだ。」
「疲れた。」
各々、遠征メンバーは不満を並べながら席に着く。
そこで不意に、ミミリがあることに気付いた。
布を被った巨大な建造物がある。
「ふっふーん、お前ら見て驚くなよ。」
そう言って俺はヴェラル様に指示を出す。
ヴェラル様は、布を思いっ切り引っ張った。
そして、その全貌が明らかになった。
「え、これって。」
ミミリは口を塞いで驚いている。
まあ、無理もないだろう。
そこにあったのは大きな時計台だった。
「これがこの島のシンボルマークだよ。
島の皆が拠点が分かるように、島の皆が時間を確認できるように。
そして、ミミリの仲間がまた集まれるように。」
ミミリは過去に縛り続けられていた。
俺も、もう一つの世界に縛られていた。
一人で頑張り続けることに囚われていた。
そんな時間を緩くほどいてくれるように。
時計はゆっくりと針を進め始めた。
物語のページはようやく、進み始めたのだった。
ー2章に続く
異世界で都市開発 ~はぐれ島での新生活~ 里下里山 @satosita
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