放課後、ありがちな告白
木下ふぐすけ
夏休み前の放課後
気の早いひぐらし。
運動部の掛け声。吹奏楽部の練習の音。
時折、廊下に足音が響く。
音を立てて、教室の引き戸が開いた。
藍沢が入ってきた。
藍沢は隣の席の椅子を引いて、座る。
「あれ、柚川まだ帰ってなかったんだ」
机の中からペンケースや教科書をリュックに詰めながら、藍沢が言った。
「まあ、な」
「なにしてたん?」
「あー……」
「待って、当てる」
藍沢は俺の机の上を数秒眺め、わざわざ口に出して「ふむふむ」と言ったあと、
「課題やってたけど飽きて携帯いじってた。どう!?」と自信満々に俺を指さした。
「ハズレ」
「な、何ぃ!?」
藍沢は大袈裟なリアクションを取った。
「まず、課題はちゃんと終わらせた」
証拠として、ノートを藍沢に見せる。藍沢がノートの縁をつかみ、まじまじと眺める。
「……コレ、写していい?」
「ダメ」
藍沢の要求を却下して、取り返したノートをカバンに突っ込む。
「次に、俺はただスマホいじってたんじゃなくて藍沢を待ってた。カバン残ってたし」
「!?」
リュックを担いだ藍沢は、予想外だとでも言うように目を見開いた。かと思えば、すぐにいつもの尊大な態度に戻る。
「ふふん。それで?この私になんの用かな?」
どう言えばいいか、一瞬迷う。が、決めた。
直球で行く。
「好きだ。付き合ってくれ」
沈黙が満ちる。
ヒグラシが、一層強く鳴いた気がした。
「……マジ?」
藍沢の回答は肯定でも否定でもなく、確認だった。
「マジ」
真剣さを伝えるべく、藍沢の目をしっかりと見る。
いつも通り、綺麗な目だ。
耐えられなくなったのか、藍沢が目をそらした。
「…………いいよ」
第二回答、肯定。
「……マジ?」
「マジ」
さっきと同じやり取りを、逆の立場で繰り返す。
「だって、私も好きだもん」
藍沢の頬が赤くなってるのは初めて見た。
「藍沢、ありがとう」
「ううん、私こそ。それと……美紀って呼んで欲しいな。ホラ、その、いつまでも名字で呼んでると名前呼びするタイミング逃しちゃうってよくあるらしいし……」
……美紀は急に饒舌になる。
「わかったよ。じゃあ、帰ろうか。……美紀」
「ふふ、顔真っ赤だよ」
「そっちこそ、な」
カバンを担ぐと、俺達を祝福するかのようにグラウンドから歓声が上がった。
少なくとも、俺にはそう聞こえた。
放課後、ありがちな告白 木下ふぐすけ @torafugu
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