頭にチップを埋め込まれていた男
hekisei
第1話
一般市民の体内にマイクロチップを埋め込み、お
その男性は40歳前後だろうか。転倒して後頭部を打ったため病院の救急室に運び込まれてきた。皮下に大きな
ところがそのCTに思わぬものが写っていた。頭蓋骨と皮膚の間に1辺が7ミリ程度の正方形の物体があったのだ。正確に言えば、元は正方形だった物体と言うべきだろうか。というのは4つあるはずの頂点の1つが欠けていたからだ。その正方形が傷口から2センチほど離れたところに埋まっていた。
オレたち脳神経外科医の間で「なんだ、これは!」という議論になった。転倒した拍子に砂粒が入ったにしては人工的すぎる形状だ。昔、日本刀で頭を斬られたヤクザのCTを見たことがあるが、その時の刃こぼれした鉄粉とも似ていない。
いつしか正方形に皆の関心が集まる。
「これはマイクロチップじゃないか?」
「異物には違いないから取り出してみよう。ロカで十分だろう」
ロカというのは業界用語で、ローカル・アネステシア(局所麻酔)の非公式略語だ。わざわざ全身麻酔をかけるまでもなく、局所麻酔で頭皮を切ったら簡単に取り出すことができるのではないか。誰かが言い出し、皆が賛成した。
「取り出したらロシア語で何か書いてあるんじゃないかな」
「きっと漢字だろう。
好き放題な言われようだ。
「うっかりMRIなんか撮ったりしたらダメだな」
「確かにそうですね」
主治医の言葉に一同うなづく。強力な磁力を用いるMR撮影装置の中に入れたらマイクロチップが簡単に壊れてしまう。
手術は翌日の昼に行われた。2人でできる簡単な処置なのに、手伝うという名目でギャラリーが4人ほど集まっていた。そのうちの1人がオレだ。CTをよく見ると正方形の他にも破片らしいものがいくつか写っている。全部を取り出すのは案外難しそうだ。
レジデントが局所麻酔を打った後に正方形の
「ん、これは?」
「何かみつかりましたか」
「これは……ガラス片かな」
「ガラス、ですか?」
マイクロチップと期待していたものは、透明なガラスの破片みたいだ。
「でも、表面に何か書いてありますよ」
「ただの模様じゃねえか!」
レジデントの言葉を術者が即座に否定した。
「なんだ、ただのガラス片か」
「おおかた転倒したときにガラス窓にでも頭を突っ込んだのだろう」
「人間を
「リード線が脳にのびていると思っていたんだけどな」
期待していた分、一同の
ふと気づくとギャラリーがすっかりいなくなっている。
頭にチップを埋め込まれていた男 hekisei @hekisei
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