第17話「踊らぬ会議に悪魔は嗤う」(2)
「…………この会議に、貴方方も参加すると?」
誰も返答しない中、ヘルデニカ領主が尋ね返す。
「えぇ、飛び入りですがーー」
少年の返答。
ーーが、始まった瞬間。
ヘルデニカ領主の傍にいた護衛の一人が、卓上に飛び乗りーーダン!!と、踏み込みの音。
会議室を貫く、一陣の風。
瞬きする間に、彼は少年に肉薄しーー。
「あぁ〜……れぇ点……」
美形が呟く。
ビチャッ……と、床に飛ぶ血。
僅かに避けた二人の脇を、猛スピードで何かが通過し、そのまま床に激突。
受身も取らず、不恰好に転がる肉体。
ごろん……と、男の生首が、床を転がって。
倒れ伏す死体の傷口から、血の海が広がっていく。
「うわぁぁぁあああああああッ!!」
耳をつんざく誰かの叫び。
周囲が色めき立つ。
一人は席を立ち、一人は嘔吐し、一人は泣き崩れ、一人は喚き、一人は……嗤っている。
「ダッセェ……!雑魚ちゃんイキっちゃったぁ?」
舌をだらんと伸ばし、表情を歪ませる美形。
その長い指には抜き身の短剣が挟まっている。
「……クソっ 」
痛ましい死体から目を逸らし、俺は小さく悪態をつく。
S級冒険者の奇襲。
素人目には、絶対避けられない、完璧なタイミングに見えた。
だが、結果はご覧の有様だ。
あの男、最低でも帝級……もしかしたら、星級並の実力者……。
一介の暗殺者のレベルじゃない。
マズい。
仮に星級並とすると、ここの戦力では、どう足掻いても太刀打ちできない。
ゴウッ!!と、爆炎が天井を舐める。
漆黒の集団を一掃するように、赤い炎がテラス付近を飲み込んだ。
「くぅ…!」
一瞬の大熱量に、遠くからでも肌を焼かれる。
「やったか……!?」
S級冒険者の一人が叫ぶ。
無詠唱、かつこの規模と威力の炎魔法。
並の技ではない。
「おいおい……動くなよ……」
響く、気怠げな声。
声の方向は、すぐ前方。
見ると、マルセン大司教殿の首元に、美形が短剣を這わせている。
「ぅぐ……」
呻く聖騎士たち。
彼を人質に取られては、彼らはもう動けない。
「あー……他の奴らぁやられちまったかー……」
だらんと首を傾けて、美形は声を垂れ流す。
その視線の先には、黒焦げになった仲間たち。
「あ〜気分悪ぃ……腹立ってきたぜホントマジ……一人くらい殺しちまうかァ!!?」
美形は、スッ!と、刃を滑らせる。
「ひぃっ!」
「あははッ……冗談♡ 」
苦悶に歪むマルセン大司教の顔。
その首には、うっすらと血の線が引かれている。
それを見て、心底愉快そうに嗤う美形。
「あー! あー!! 大司教サマとあろうお方が!! 首をちょびっと切られただけでお漏らしかぁ!? 情けねぇ〜なァァ!!げぇぁははははははッ!!!」
その場を包み込む狂笑。
壁に反射し、幾重にも木霊して、人の鼓膜を揺さぶってくる。
底無しの狂気が、頭に染み込んでいく。
「静かにしてくれる……?プゥスカ 」
少年の静かな声。
鼓膜が痺れる。
気付けば、少年は俺のすぐ後ろにいた。
ピタリと止む狂笑。
鼻をふんと鳴らして、美形ーープゥスカは、両手をお手上げのように軽く垂らした。
「……YES、ぼぉ〜す 」
プゥスカは素直に口を閉じる。
途端、静まり返る室内。
誰も、何も発しない。
動こうとすらしない。
「いい子……」
子供をあやすような、優しい声。
少年はゆっくりと、会議室を闊歩する。
コツ、コツ、コツ……と、響く靴音。
辿り着いたのは、ヘルデニカ夫妻の席の間。
「その席、譲ってくれません?」
微笑む少年。
顔を強張らせるヘルデニカ夫妻。
領主は反射的に口を開き、そこで硬直。
何も言わぬまま、沈黙する。
そのまま、彼は席を立った。
それに倣い、領主夫人も席を立つ。
「ありがとう。殺さずに済みました 」
あっけらかんと語る少年。
空虚さを感じる言葉に、不思議と背筋が凍る。
少年は、ヘルデニカ領主の席ーー会議室を見渡せる最上位の席に、深く腰掛けた。
椅子のサイズとミスマッチな、小さい体。
たちの悪い、ふざけたお遊戯のような光景。
だが、それを咎める者は一人もいない。
彼こそが、この場の
「では……会議を始めましょうか 」
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前世は神さま……だったのに!! 〜ヒロインとイチャイチャするだけで、世界は救えないようです〜 八日目のセミ @semi_8days
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