クィア研究とは、性の多様性を勉強する学問のこと。高校二年生の比嘉華恋は、小学校からの腐れ縁である茂木愛生から、卒業論文のテーマとしてクィア研究を持ちかけられる。
すっごく面白かったです。恋に落ちたい華恋と片思いを続けたい愛生、二人の距離感がたまらなく好きでした。恋人(パートナー)の関係は、一方にしか恋愛感情がなくても成立するんだと考えさせられます。
LGBTなど、最近は目にする機会が増えました。しかし、そういった”名前”が付けられることで嫌悪感を覚える人もいれば、逆に安心感を得られる人もいる、と聞きます。
色々な性格の人がいるように、性に関しても色々な人がいて、相手のことを完璧に理解することはできないんだと再認識させられる作品です。
ただ用語を知っているだけでわかった気になっていたり、自分とは違うから変だと決めつけていたり、そういうことをしたくないと強く感じました。でもなによりまずは、知るところから始めないといけないと思います。
この物語の中でも言葉の解説がありますし、きっと読み進めていくうちに、自分でも調べてみようとなります。
華恋は、愛生、そして友人の莉緒、元パートナーの朔空とともにクィア研究をすることになります。そこでの議論の様子は必見です。討論や会議などで自分の意見を言うのが苦手な人、いませんか?私もその一人ですが、華恋たちはグランドルールを設けて議論を重ねていきます。
誰かの意見を頭ごなしに否定しない、話しているときは口を挟まない、考えているときはちゃんと待ってあげる、などのちょっとしたルールをあらかじめ決めておき、守ることで、こんなにも内容の濃い話し合いができるんだなと感じました。
また、作中には、ハッとさせられる台詞がたくさんあります。
当たり前を疑うということ。自分にとっての当たり前は、はたして相手にとっても同じように当たり前なのか。考えなしに発した言葉で傷つく人がいるかもしれません。
素敵なこの物語を読んで、自分を見つめ直し、視野を広げてみませんか?ぜひ読んでみてください!
クィア小説あるいはLGBT小説というと、同性愛の物語や、トランスジェンダーが主人公の物語を思い浮かべる人が多いでしょうが、同性愛者やトランスジェンダーだけがクィアの全てではないのです。
この作品はLでもGでもBでもTでもない、だけどヘテロでもない、マイノリティなセクシャリティをもつ高校生の男女が主人公となります。主人公の一人であるの華恋は、他者に対して恋愛感情を抱かないアロマンティック。もう一人の主人公の愛生は、他者に対して恋愛感情を抱くけれど両想いになることを望まないリスロマンティック。
人は恋は必ずいつか恋をするもの。恋をした人間はその相手と両想いになりたいと望むもの。そんな常識に当てはまらない人間も、世の中には案外居るんだよということを、この作品を通して多くの人に知ってもらいたいです。
ちなみにこの作品は神原さんの前作「薄氷の上で愛を奏でる」と繋がりがありますので、そちらも併せて読むことをおすすめします。
「恋に落ちたい私と片思いを続けたい俺」この引き込まれるようなタイトルは単なる釣りではありません。このタイトルに込められた作者の想いが全編に流れています。
一言一句見逃したくない。
言葉にするのが難しい感情や経験をサラッと表現してしまう作者の才能に驚嘆しつつ、物語にまるで当事者のように入り込んでしまいます。引き込まれます。自分ならこんな場面でどう思うだろうか、どんな言葉をかけただろうか。読みながらそんな事を考えてしまいます。
心を揺さぶられるこの作品。
この感動をすべての人と分かち合いたいです。
絶対に埋もれさせてはいけない名作中の名作です。