嘘の花火
水原緋色
第1話
夜の闇の中に光が散る。
季節外れの花火をしようと言い出したのは、一番はしゃいでいる彼女だ。隣にいる恋人と、仲睦まじげに何やら言い合っている。
そんな姿をぼんやりと眺めながら、そばにあった線香花火を手に取る。
パチパチと控えめに散る光が、すぐに地面に落ちた。
「あーあ、落ちてんじゃん」
「湿気てんのかもね」
へらりと笑えば、うーんと顎に手を当てるそぶりをして、そうかもなと彼も笑った。
隣に座ったきり口を開かないから、横顔を盗み見る。その視線は彼女に釘付けで、声になる前の言葉が喉の奥に詰まった。
「諦めねーとな」
独り言のようにこぼれた彼の言葉が、はじけた焚き火の音で消えた。
願わくば彼の恋が散りませんように。
嘘の花火 水原緋色 @hiro_mizuhara
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