振り返る
小さい頃から空想が大好きだった俺は、中学生になるといつしか自分で物語を作るようになった。最初に挑んだ絵は挫折し、次に小説を書き始めた。国語が得意だったこともあり文章を書くほうが手慣れていたので、みるみるうちに小説というものにハマっていった。
当時は携帯電話の時代で執筆アプリなんてものはそんなになかったから、使うのは専らノートだった。朝の授業前、合間の休み時間、昼休み、そして放課後。二百ページくらいある青い表紙のリングノートをこっそり持ち歩いては合間に書き溜めていった。本文は一番前のページから、設定は一番後ろのページから。本文と設定がぶつかった時がノートの変え時だった。
最初に書いたのは俺っぽい主人公が世界を救う現代バトルもの――今読むとこっぱずかしくて誰にも見せられない。身近にいた人達をちょっと設定を盛り込んで登場させるくらいの想像力しかなかった。次に書いた話は異世界トリップものの冒険ファンタジー。これまた俺っぽいキャラが主人公だが、他の登場人物は全てオリジナルで作り上げた。この頃は漫画やアニメ、小説を読む機会が多くなったから、インスピレーションをもらったのだと思う。この辺りで気づいたのだが、どうやら俺はバトルものが好き、ということだ。男子のテンプレみたいな性格だが、やっぱりキャラ達がいきいきと戦っている姿にはワクワクする。
大学に入学した頃、スマートフォンが普及し始めた。SNSが盛んになり、世間では投稿サイトが主流になってきた。執筆アプリも少しずつリリースされ始め、スマートフォンひとつで執筆から作品の公開までできるようになった。入学と同時にパソコンを買ってもらった俺は、今まで書いてきた小説を少しずつ投稿サイトにアップロードし始めた。最初の頃はPV数は全く伸びなかったが、コメントがもらえるだけで嬉しくて堪らなかった。
そして今、執筆アプリにこの文章を書いている。いわゆる棚卸のようなものだ。
「よし、こんなもんか」
ちょうど時計のアラームが鳴った。出発の時間だ。今日は早朝の会議があるからいつもより早めに出発しないといけない。
最初はたどたどしかったスマートフォンの操作も今では慣れたもの。指をフリックしてアプリを閉じる。通勤鞄を肩に掛け、玄関へと向かう。
「行ってきます」
小さな声で呟く。その先には書籍化された俺のポスターがあった。
書く人々 紫水 伶 @S_Rey_
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