二刀流

「あーこれは無理だ、書けない」


 天井を見ながら呟いた。白い壁紙には一点のシミもない。私の頭もこのくらいクリアだったら嬉しいなぁ、と現実逃避モードに入る。

 新作が書けないのだ。頭の中に映像は浮かんでいるのに、プロットだって作ったのに、書けないのだ。どうしても手が止まってしまう。どうしてもそこから先へ進めない。


「……はい!今日は書くのはやめ!お疲れ様でした!」


 これはもう今日は書くなってことかもしれない。そう感じたら決断は早かった。書いたところまで保存して執筆アプリを閉じる。


「はい次!描くぞ!」


 そして開いたのはペイントアプリ。たくさんのアイコンと、左下には四角と輪っかが組み合わさったグラデーテションパレットが整然と並ぶ。カーソルをいくつかクリックして、中央のぽっかりと空いた灰色の空間に白いキャンバスを映し出す。


「この前は二話のケルトとリオが出会うシーンを描いたから、次は三話でリオが魔法を発動するシーン……」


 魔法のエフェクトってどうやって描けばいいんだろう。手描きでキラキラな感じを書き込むか、素材集から魔法陣を引っ張ってくるか……とりあえず人から描こうかな。簡単なラフを描きながら頭を巡らせる。この文章を書く時とは違う頭の使い方に最初は苦労したけど、今ではすっかり慣れてしまった。人間はすごいな。


「よーし構図は決まり!とりあえず一時間やってみるぞ」


 ペンを構えて気合一発。今からは絵師の時間だ。

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